“女に生まれ落ちた不幸”に屈しない
[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)
インド北部の村に住む不可触民のスミタ、イタリアのパレルモで家族経営の毛髪加工工房で働くジュリア、カナダ・モントリオールのエリート弁護士サラ。国籍も境遇も年齢も違う三人の女性たちが、制度や慣習に屈せず生き抜く闘いが描かれる。
もっとも過酷な運命を背負っているのは、スミタだ。インド憲法では、カーストを理由にした差別を禁じているが、スミタの住むエリアでは村の委員会がすべてを仕切っていて〈委員会の決定は、たとえそれがインド憲法に反していても、法の力をもつ〉。だが、自分のようなみじめな人生を六歳の娘には決して味わわせたくないと行かせた学校で娘が受けた仕打ちとは。スミタは決死の計画を夫に打ち明ける。
ジュリアは、三度の食事より本が好き。恋愛には興味がなかったのに、図書館で知り合ったインドの少数派・シク教徒のカマルとひと目で恋に落ちた。父が事故に遭い、家族と倒産寸前の工房を救うためには、裕福なジーノの求婚を援助目的で受け入れるしかないのか。そう思いかけたジュリアに思いがけない助け船を出したのは……。
抜きん出て高い地位と収入を得ているサラは、出世のために子どもが三人いることさえ隠してきたのに、乳がんが見つかるや否や同僚たちからのけ者扱いされる。病気であること、女性であること。それだけの理由で受ける、社会の不条理や証明の難しい「差別」という暴力。
読み手である自分たちと、国も立場も違う遠い存在の女性たち。その三人をつなぐのは髪だ。彼女たちにふりかかる不条理や生きにくさの正体は、遠いどころか極めて身近。だからこそ、行き場のない怒りや悔しさを抱えた人々に、髪の絆=希望への祈りと、闘う勇気を持とうと語りかけるこの物語が響く。