本当に「社員が幸せ」なら、業績は3割アップする! 日本の働き方改革のまちがいとは何か

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本当に「社員が幸せ」なら、業績は3割アップする! 日本の働き方改革のまちがいとは何か

[レビュアー] 前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)


前野隆司

「働き方改革」という言葉が聞かれるようになってからずいぶん時間がたちました。しかし、実際に職場の環境が改善された感はない、という声もよく聞こえてきます。日本では「社員の幸せ」なんて単なる幻想でしょ、と諦めている人も多いようです。
 しかし実際に、社員が幸せを感じながらいきいきと働き、しかも継続的に業績を上げている企業は日本にもあるのです。
 最新刊『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)では、ヤフーやユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、伊那食品工業、ダイヤモンドメディアという4つの企業が全社的な取り組みによってどれたけの変化を遂げたかを大きく取り上げましたが、組織運営に「幸せ」という観点を取り入れる試みは今、世界の多くの企業で進んでいます。

 それはなぜでしょうか。実は、従業員を幸せにした方が、確実に業績も上がるからです。社員や会社の幸福度と業績は比例します。
 ある研究によれば、幸せな人はそうでない人に比べて創造性は3倍、生産性は31%、売上げは37%高い傾向にあります。
 また、幸せな人は職場で良好な人間関係を構築しており、転職率・ 離職率・欠勤率がいずれも低いというデータもあります。その他、国内外の様々な研究から、幸せな従業員は生産性が高いことが科学的に証明されています。

 政府主導の「働き方改革」によって、各企業では時短や業務改善が進められています。長時間労働を減らすのは悪いことではありませんが、経営陣から一方的に時短を強要され、従業員が労働時間に汲々としながら大量の仕事に追われるようになった職場も少なくありません。
 こうした「働き方改革」では、なるべく無駄を省いて効率化する方向に向かっていますが、一見無駄に思えることでも、実は大事なことがあるのです。
 例えば、職場での雑談や、本質的な話をする時間です。時間に追われて目の前の仕事で精一杯になれば、従業員の課題や悩みも置き去りにされ、モチベーションは下がり、結果的に生産性や売り上げが下がることもあるでしょう。

 また、社員旅行や飲み会なども、日本人の幸せに関連する「つながりと感謝」を強めるためには必要な場合もあります。
 例えば、「利益ではなく、社員の幸せを第一にする」という理念を持つ、ある会社では、毎日1時間も朝礼をしています。しかも、そこで1時間じっくり話し合うことを皆が楽しみにしているのです。社員たちが課題やビジョンを共有し、仕事に対するやりがいを高めることで、結果として利益も上がりました。

 ですから、これからの組織はまず「社員を幸せにすること」を目指すべきです。創造性が3倍、生産性が1.3倍になれば、時短にもつながります。
 トップがそう気付いた企業はすでに変わりつつありますが、トップ自身が幸せそうではない企業や、トップが気付かない企業は取り残されています。
 そこで、まずは「チームの幸せ」から始めなければいけないというのが、本書を書いた目的です。
 中間管理職からでも、チームリーダーからでもいい。気付いた人から自分の属するチームを幸せにしていこう。リーダーは「ボス」ではなく協調型に変わり、できる限り現場に権限譲渡していく。その動きはどんどん会社全体に伝わっていきます。本書には、30代の女性社員の気づきが会社を変えていった例も出ています。

「幸福学」とは、幸せを科学的に検証し、実践に活かすための学問です。「幸せ」というと、宗教的だとか、ぼんやりした概念と捉えられる傾向がありますが、人が幸せを感じるメカニズムは基本的にシンプルです。そして、様々なアプローチによって幸福度は高めることができます。
 私たち日本人は、どこかで幸せになることへの罪悪感を抱えているように思います。辛い思いをしなければ、人生はうまくいかないのだと。
 でも、人の幸せを科学的に検証した結果、特に辛い思いをしなくても、幸せを長続きさせる方法はあるのです。まずは、あなた自身が幸せになることを考え、幸せに働く方法を試してみてください。幸せの輪は次第にチームへ、会社全体へと広がっていくはずです。

小学館
2019年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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