選択と誘導の認知科学…山田歩著 内村直之 ファシリテータ 植田一博 アドバイザ

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選択と誘導の認知科学

『選択と誘導の認知科学』

著者
日本認知科学会 [監修]/山田 歩 [著]/内村 直之 [監修]/植田 一博 [監修]
出版社
新曜社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784788516182
発売日
2019/03/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

選択と誘導の認知科学…山田歩著 内村直之 ファシリテータ 植田一博 アドバイザ

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 ファストフードの店に入って、30分後にそこを出たとしよう。誰かに店を出ろと言われたわけではない。自発的にそうしたのである。だが座っていた椅子の硬さが、平均して30分後に退店したくなるよう、巧妙に設計されていたならどうだろう。それは自発的な選択といえるだろうか。本人は自発的なつもりでも、誘導により起こった選択なのだ。

 こうした選択の誘導は、近年さまざまな分野で注目されている。ものを買わせようとするマーケティング論、賢明な選択をさせようとする行動経済学、誘導と自由とのバランスを危惧する法哲学などは、その例である。それら諸分野では、それぞれの関心に合わせて、選択と誘導の問題が論じられている。その反面として、選択の誘導は学びにくい。断片的な知識は得やすいが、全体像をつかみにくいのだ。

 本書はそのフラストレーションを、わずか176ページで解消する。さまざまな研究成果を手短にまとめ、似たもの同士を一つの章に入れて、全体像を見せてくれる。行動科学の書籍は、ときに面白い話を紹介するだけに留(とど)まりがちだが、本書は一般性ある説明を与えてくれる。

 たとえば冒頭のファストフードの話。なぜ「長時間の席の確保はおやめください」との張り紙は、硬い椅子ほどの効果がないのだろう。それは目的を実現するまでのプロセスが長いからだと著者はいう。張り紙だと、客が張り紙を知覚し、内容を理解し、それに従うかを判断し、さらには行動に移さねば、目的は実現できない。ところが硬い椅子だと、理解と判断のステップがショートカットできる。肉体が座りにくさを感じたら、立ち上がる行動が容易に誘発されるからだ。この説明が分かりやすいのは、「知覚→理解→判断→行動」というプロセスの抽象化が上手(うま)いからである。全編を通じてそのような本書は、日本認知科学会の監修によるシリーズの一冊。余計な飾りのない、プロならではの作品である。

 ◇やまだ・あゆみ=滋賀県立大講師。実験社会心理学などが専門。著書に『消費者心理学』(分担執筆)など。

読売新聞
2019年5月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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