「神国」の正統論…齋藤公太著 ぺりかん社/徂徠学派から国学へ…板東洋介著 ぺりかん社

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「神国」の正統論

『「神国」の正統論』

著者
齋藤公太 [著]
出版社
ぺりかん社
ISBN
9784831515322
発売日
2019/03/06
価格
6,912円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

徂徠学派から国学へ

『徂徠学派から国学へ』

著者
板東洋介 [著]
出版社
ぺりかん社
ISBN
9784831515308
発売日
2019/03/28
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「神国」の正統論…齋藤公太著 ぺりかん社/徂徠学派から国学へ…板東洋介著 ぺりかん社

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 近世(江戸時代)は、日本思想史のなかでも、とりわけ多くの研究が集中している分野である。儒学・神道・国学・仏教、さらにさまざまな文芸や芸道など、多くの思想潮流が議論を展開し、おたがいに交流し論争した点で、前近代において特筆すべき時代なのである。

 この時代を中心に扱った、思想史研究の若手による注目作が二冊、あいついで刊行された。齋藤公太の本は、南北朝時代に書かれた歴史書、北畠親房『神皇正統記』の解釈史を軸にして、中世から明治期にまで至る流れをたどる。

 親房の言う「正統」は、神器の継承、日本独自の天皇と臣下の関係、統治をめぐる規範など多面性をもつ概念だった。徳川時代の儒者たちは、武家の君臣関係を念頭に置きながら、統治者の「徳」の必要性をそこから読み取っていたが、十九世紀には水戸学の論者たちが議論の重点を、日本独特の「国体」の理念による人心の統合へと向けた。それが明治時代の国語教育へ、そして国民道徳の提唱へとつらなってゆく。

 そうした多様な議論が展開した背景には、外来思想である儒学と、日本の伝統との関係をめぐる問題がある。板東洋介の新著は、その両者のあいだの亀裂を発見し、そこから人間と倫理をめぐる独特の思考をつむぎ出した思想家たちの営みを探る。焦点となるのは、儒学の「道」を、徹底して人の心の外部にある制度装置と再定義した荻生(おぎゅう)徂徠(そらい)・太宰(だざい)春台(しゅんだい)と、彼らへの批判から、日本の伝統によりそった「表現する人間」としての生き方を提起した賀茂(かもの)真淵(まぶち)である。

 儒学と国学、立場は異なるが、彼らがいずれも日本の伝統思想にありがちな「心」の教説を離れ、生活の中に息づく「型」を重視したことに、板東は注意をむける。それは齋藤がとりあげる、複雑でたやすく見通せないものとしての「歴史」への関心にも通じるところがあるだろう。研究の最前線で、思想史は大胆に語り直される時期に来ているのである。

読売新聞
2019年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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