読む寿司 オイシイ話108ネタ…河原一久著 文芸春秋

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読む寿司 オイシイ話108ネタ

『読む寿司 オイシイ話108ネタ』

著者
河原 一久 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163910154
発売日
2019/04/19
価格
1,540円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

読む寿司 オイシイ話108ネタ…河原一久著 文芸春秋

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 著者は、海外から訪れた友人が本格的な江戸前寿司(すし)に接し感動の涙を流したことをきっかけに、寿司に関するあらゆることを調べ始めた。個人的に知り得たことや面白いと感じたことを108の<ネタ>にまとめており、「寿司検定の副読本」のような気分で楽しく読める。

 戦前から続く寿司職人紹介所のこと、ネタとシャリの絶妙な関係、明石ダコの圧倒的美味(おい)しさについて、トロを10回続けて注文した三島由紀夫の話から、酢の老舗「ミツカン」の誕生のいきさつまで。コラムでは「札幌」「金沢」などご当地寿司も紹介される。本書でネタを仕入れれば、つい誰かに話したくなるに違いない。

 京都に生まれ育った私にとっての寿司は、ぽたぽたに炊いたお揚げさんのいなり寿司と、椎茸(しいたけ)、干瓢(かんぴょう)、香り高い三つ葉入りの太巻き。昼食にうどんと共に食卓に上る普段のお寿司だ。子どもの頃、1970年代、海には遠い京都市内の庶民に本格的な握り寿司は、高嶺(たかね)の花だった。

 最近は、流通や鮮度管理システムの発達と共に、気軽に行ける回転寿司店が全国展開され握り寿司も身近になった。本書によると、大手食品会社が2017年に関東・関西で行った調査で、74・4パーセントの人が寿司は「回転寿司店」で食べると答えている。京都の若い世代に、握りに対する憧れの感覚はもう通じないかもしれない。

 一方、2011年に公開されたアメリカのドキュメンタリー映画、世界的カリスマ寿司職人小野二郎さんを描いた「二郎は鮨(すし)の夢を見る」によって、外国人の鮨に対する認識は一変したという。訪日客の寿司への興味は単なる「ヘルシーフード」ではなく「日本の食文化の一つ」として、深まりをみせ始めた。「はじめに」に<本書は、いわゆる「ガイドブック」の類ではない>とあるが、著者の寿司愛が詰まった本書は、寿司文化へ誘(いざな)うという点において大いなる「ガイドブック」と言えるだろう。

読売新聞
2019年5月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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