夜が暗いとはかぎらない…寺地はるな著 ポプラ社

レビュー

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夜が暗いとはかぎらない

『夜が暗いとはかぎらない』

著者
寺地 はるな [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591162743
発売日
2019/04/11
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

夜が暗いとはかぎらない…寺地はるな著 ポプラ社

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 舞台は大阪近郊の暁町。この町に「あかつきマーケット」と呼ばれる商店の集まった場所がある。平べったい建物のなかに鮮魚店やパン屋などが十軒以上ひしめきあっていて、真ん中の広場ではあかつきまつりや福引きが行われる。ただ経営状態はよろしくなく、近々取り壊しと再開発が決まっている。

 このあかつきマーケットのマスコット、着ぐるみのゆるキャラが「あかつきん」だ。水色のイヌかクマのようなアニマルで、童話の赤ずきんちゃんと同じような出(い)で立ちをしている。本書の物語は、このあかつきんがあるとき失踪してしまい(姿を消す直前には暴れ出して取り押さえられたという)、その後なぜかしら町のあちこちに出没しては人助けをするようになった――という状況下でスタートする。

 あかつきんは雪道で滑って転んだおじさんを助け起こしたり、両手をぱたぱた動かして夫婦喧嘩(げんか)の仲裁に入ったりする。ガード役らしい怪しい風体の男性が近くにいて、あかつきんがそういう現場に長居しないように連れ出してしまう。だから町の人たちのあいだで、「あかつきんのしっぽを掴(つか)むと幸せになれる」なんて都市伝説的な噂(うわさ)も囁(ささや)かれるようになる。

 着ぐるみのあかつきんの中に誰が入っているのか、町の人たちは知っていた。でも、失踪して小さな親切運動をしているあかつきんの中身は別人らしい。その誰かはなぜあかつきマーケットから逃げ出し、善行を積んでいるのか。このほんわりした謎に多くの登場人物が交差して、一話ずつ主役をバトンタッチしながらお話は進んでゆく。妻とうまくいかない若い夫。友達のいない青年。厳しい父親に押さえつけられて育った姉を案ずる弟。恋人の嘘(うそ)に悩む女性。勝ち気な祖母の「いい娘」を卒業できずに苦しむ母親のようにはなりたくないと怯(おび)える少女。

 淡く優しく、でも甘くない筆致が快い。終盤、印象的なタイトルの意味が心にしみてくる。

読売新聞
2019年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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