<東北の本棚>反骨貫いた俳優の素顔
[レビュアー] 河北新報
映画「仁義なき戦い」「トラック野郎」の俳優、菅原文太(1933~2014年、仙台市出身)の本格的な評伝だ。庶民に愛されたアンチヒーロー、晩年は社会活動にも力を入れた硬骨漢。その原点と言える仙台一高時代をはじめ、反骨のスターの素顔に迫る。
詩や絵画に興じた父は、中国出征の経験がある。仙台一高生の文太は、父のお古の軍服に高げたのいでたちだった。所属した新聞部ではデスクを務め、後輩の井上ひさしの記事をボツにしたという。学校に行かず、映画ばかり見ていた。バンカラな魅力にあふれた文太の面目躍如だ。
早大に進学したが、学費が払えず除籍。モデルのバイトで食いつなぐうち、映画関係者の目にとまる。新東宝から悪役でデビューしたが、初めは演技力がなく、監督に指導を受ける間、他の役者は昼寝していたとの逸話も明かす。元やくざの俳優安藤昇との出会いが転機になり、東映に移籍。水を得た魚の文太は1年ちょっとで主役を務め、東映の顔になっていく。
筋ジストロフィーの子たちの作品集を出版するなど社会貢献にも熱心だった。俳優の息子が踏切事故で亡くなった経験が大きかった。75歳から有機農業を実践。読書家で、ラジオや雑誌の対談を通じ問題意識を深めたと分析する。
東京電力福島第1原発事故後、自然エネルギー推進会議の発起人に名を連ねた。死の直前も、沖縄県知事選の故翁長雄志氏の応援に駆け付けた。そんな文太の姿勢に想像を巡らせる。「中央から軽視され、東日本大震災後も十分な復興がなされていない東北の現状と、同じように中央から犠牲を強いられてきた沖縄の姿が、文太の心に重なっていたのかもしれない」
文太の映画を愛好する宇都宮市出身のライターの著者が、文太や映画監督ら関係者のインタビュー記事、著書などを丹念に当たり、「人間、菅原文太」を浮き彫りにした。
現代書館03(3221)1321=1944円。