中国との「援助競争」に乗ってはいけない理由

対談・鼎談

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世界地図を読み直す

『世界地図を読み直す』

著者
北岡 伸一 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106038402
発売日
2019/05/22
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【筆者対談】北岡伸一×池内恵/「大国の周縁」から見た地政学

[文] 新潮社


「お金を出せば、それで相手国の信頼と尊敬が得られるというわけではない」――この度、『世界地図を読み直す:協力と均衡の地政学』(新潮選書)を刊行した北岡伸一・国際協力機構(JICA)理事長と、中東・イスラーム研究者の池内恵・東京大学教授が、国際協力のあり方について対談しました。

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池内 今回の本では、中国を訪問した話は入っていません。しかし序章では「一帯一路」について詳しく書かれていますし、またアジアやアフリカの国々を論じる中でも、常に影のように中国の存在が感じられるような内容になっています。中国にどう向き合うかが、本書の隠れたテーマではないかと思いました。

北岡 地政学と言うなら、本来は真っ先にアメリカ、中国、朝鮮半島を書かなければなりません。しかし、これは非常に大きな問題で、すぐに片付く話ではない。せいぜい引き分け狙い、四勝六敗でも仕方がないというぐらいです。
 一方で、外交の世界は大きな問題だけで成り立っているわけではありません。「遠交近攻」ではないですが、アジアやアフリカの国々と日常の問題について協力していくことが、じつは中国と向き合う国際秩序を作っていく上でも意外に有効なのではないかと考えています。


池内恵氏

池内 もちろんJICAには中国に挑戦する気などないでしょうが、本を読むと、結果的に何となく中国を取り巻くように事業を展開しているように見えますね。

北岡 中国に対する警戒は必要ですが、だからと言って、何でも対抗する必要はないと考えています。本でも書いたように、「一帯一路」についても条件付きで協力して、むしろ中国と一緒になって開かれた国際秩序を作っていく方がいい。
 アフリカ諸国への協力についても、どうしても「中国との援助競争」と思われてしまいがちです。しかし、お金を出せば、それで相手国の信頼と尊敬が得られるというわけではありません。先ほどの紛争解決の話と同じで、やはり現地の人が主役となって取り組まなければ発展などできません。日本がやるべきことは、現地の人の要望をしっかり聞いて、彼ら自身で問題を解決できるように側面からサポートすることです。

池内 中東でも、中国のプレゼンスは拡大していますが、そのおかげで日本が得している面もあります。これまで日本に無関心だった人々が振り向いてくれるようになりました。世界の重心が東アジアに移るに伴って、中国に依存しすぎないようにバランスをとる対象としての日本の影響力も増しているように感じます。

北岡 私は改憲論者ですが、日本国憲法前文の「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という点は大いに賛成しています。青年海外協力隊の活動は、そのことに貢献してきたと思います。一方、日本は未だに対米依存が強く、大国としての責任を十分に果たしていません。世界が抱えている問題の解決に向けて、PKOをはじめ、もっと積極的に取り組まなければならない。JICA理事長になって、小さい国でも頑張っているところが多いことを知り、勇気づけられました。日本ももっと頑張ろうというのが本書で一番伝えたいメッセージです。

 ※【筆者対談】北岡伸一×池内恵/「大国の周縁」から見た地政学「波」2019年6月号より

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北岡伸一(きたおか・しんいち)
1948年、奈良県生まれ。東京大学名誉教授。2015年より国際協力機構(JICA)理事長。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連大使(国連代表部次席代表)、国際大学学長等を歴任。2011年、紫綬褒章受章。著書に『清沢洌』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党』(吉野作造賞受賞)、『国連の政治力学』、『外交的思考』など。

池内恵(いけうち・さとし)
1973年、東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター教授。東京大学文学部イスラム学科卒業。同大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。著書に『現代アラブの社会思想』(大佛次郎論壇賞)、『書物の運命』(毎日書評賞)、『イスラーム世界の論じ方』(サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(毎日出版文化賞特別賞)、『中東 危機の震源を読む』、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』『シーア派とスンニ派シーア派とスンニ派』などがある。

新潮社 波
2019年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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