【聞きたい。】赤松利市さん 『ボダ子』 体験基に「書き終えボロボロ」

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ボダ子

『ボダ子』

著者
赤松 利市 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103524816
発売日
2019/04/19
価格
1,705円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】赤松利市さん 『ボダ子』 体験基に「書き終えボロボロ」

[文] 本間英士


赤松利市さん

 すさまじい本を読んでしまった-。読後の正直な感想だ。物語に救いはなく、多種多様な「悪意のはけ口」がべったりと描かれる。そのうえ、登場人物の行動にも共感できない。それでもページを読み進めさせてしまう力がある。

 主人公の浩平は、バブル崩壊で事業が破綻した会社経営者。「境界性人格障害」(ボーダーライン)と診断された娘と東北に転居し、土木作業員となる。復興ビジネスに一筋の希望を見いだし、立ち直ったように見えたのだが…。

 「自分の体験を基に書いた作品。そもそも読者を意識して書いておらず、書き終えた今はボロボロです」

 自身、会社経営者に非正規労働者、風俗店の呼び込みなど多くの仕事を経験した。辛(つら)い現実から逃げ、大金を一晩でとかす刹那的快楽。自宅近くの公園で明かす夜の辛さ。現場での陰湿ないじめと理不尽な暴力…。〈金だ、金。チキショウ! 金だ!〉。今作に描かれた家族の肖像も、目を背けたくなる描写も、実体験に基づいているという。

 福島の原子力発電所の除染作業員などを経て約3年前に上京。月20~40冊の本を読む活字中毒で、自宅代わりの漫画喫茶で小説を書いた。昨年、原発の除染作業員を描いた『藻屑蟹(もくずがに)』で大藪春彦新人賞を受賞し作家デビュー。暗部に生きる人々をつぶさに描く作風と、「62歳、住所不定、無職」(当時)という異色の経歴が話題になった。

 これまでマスコミが報じない「被災地の暗部」も描いてきた。だが今後、被災地を著作の舞台にするつもりはない。「今の変化した被災地の空気を書く自信がない」からだ。色欲にまみれて滅亡していく人間を書きたいという。「自分はゲスな人間。社会派を気取らず、自分にしか書けないものを素直に書きたい」

 今も漫画喫茶で原稿を書く日々を送る。「自分の作家としての武器は経験値。他の人が経験してない、アホな人生送ってますから。まだまだネタも引き出しもありますよ」(新潮社・1550円+税)

 本間英士

   ◇

【プロフィル】赤松利市

 あかまつ・りいち 昭和31年、香川県出身。初長編『鯖(さば)』は今年の山本周五郎賞候補になった。

産経新聞
2019年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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