<東北の本棚>震災題材 奇跡の旅描く

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サッカーボール海を渡る

『サッカーボール海を渡る』

著者
飼牛万里 [著]
出版社
海鳥社
ISBN
9784866560434
発売日
2019/02/18
価格
1,650円(税込)

<東北の本棚>震災題材 奇跡の旅描く

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災の津波で流され、米アラスカで見つかったサッカーボールが持ち主の元に戻ってきた実話を題材に物語に仕立てた。希望を失わず苦難を乗り切った5000キロの奇跡の旅を描いた。
 サッカーボールの「ぼく」の古里は山に囲まれ、海に面した東北の小さな町。スポーツ店の棚でのんびり過ごしていたが、小学生4、5人と先生がやって来て、転校する友達のけんちゃんへのプレゼントとして選んでくれた。けんちゃんはサッカー好きで、ぼくは一番の仲良しとなった。
 数年たった春の日の午後、地震で家が激しく揺れ、黒い水が流れ込んでぼくは海に押し出され、大海原をひとりぼっちで漂うことに。何度も心が折れそうになったが、太陽や月が見守り、鳥や魚たちが優しく声を掛けてくれた。
 またけんちゃんに会いたい-。クジラ親子の手助けでアラスカの海岸にたどり着き、奥さんが日本人というおじさんと偶然出会う。奥さんは、ぼくの体に書いてあるけんちゃんの友達のサインに目を留め、いろいろ調べ始める。
 著者は翻訳家、著述家。幼少期に貨客船で太平洋を2度往復した経験があり、大海原の情景描写が丁寧で臨場感あふれている。物語を通じ希望のメッセージを世界中に届けたいと自ら書いた英語版も収録した。
 海鳥社092(272)0120=1620円。

河北新報
2019年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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