『レコード越しの戦後史』
書籍情報:openBD
【聞きたい。】とみさわ昭仁さん 『レコード越しの戦後史』
[文] 櫛田寿宏
■マニア心くすぐる珍盤を紹介
偏執狂的レコード収集家のライターによる戦後の精神史。アナログレコードといっても、LP盤ではなく、ドーナツ盤限定というところがマニア心をくすぐる。世相を反映した歌謡曲で歴史をひもとく。
「名曲には興味がなくて、芸人のコミックソングだとか万博やオリンピックにちなむ歌など、昔から変なものばかり集めてきました。プロレスラーの力道山をたたえたレコードの『嗚呼力道山』は初期のコレクションで、これをかけてクラブでDJをしたりしていました。『力道山の活躍に国民は胸を躍らせたのです』といった調子です」
並木路子の「リンゴの唄」で始まる戦後歌謡の世界。人々に夢を与えてきた宝くじに関する珍盤も紹介している。非売品のソノシート「宝くじ音頭」で、何と昭和の大スター、島倉千代子が歌っている。本書では、宝くじの“神様”と呼ばれた日本勧業銀行(現みずほ銀行)のバンカー、片岡一久の活躍にもふれる。
世間を騒がせた事件を題材にした歌も発売されている。昭和43年に東京都府中市で起きた3億円事件にまつわる歌。ジ・アルフィーによる「府中捕物控」など3曲を取り上げ、「3億円事件は金額の大きさが人々の関心を引いた。事件に対する怒りより、羨望の方が大きかったことが、当時の歌からうかがい知れます」と分析する。
日本の復興のシンボル、東京タワーを歌った「東京333米」は、「ランデブー」「アデュー」など、ハイカラな言葉をちりばめ、当時の最先端を感じさせる。333はもちろん、タワーの高さ。
時を経て、東京の天の主役は東京スカイツリーに移り変わった。
「スカイツリーを歌った曲もたくさん発売されています。はやり物を折り込むという点では、東京タワーの時代から何も変わっていないんですよ」(エレキング・ブックス・1800円+税)
櫛田寿宏
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【プロフィル】とみさわ昭仁
とみさわ・あきひと 昭和36年、東京都生まれ。著書に「無限の本棚 増殖版 手放す時代の蒐集論」「ゲーム ドット絵の匠 ピクセルアートのプロフェッショナルたち」など。