物語から逃れられない人間が、物語に飲み込まれないように生きる方法

レビュー

7
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物語は人生を救うのか

『物語は人生を救うのか』

著者
千野 帽子 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480683519
発売日
2019/05/07
価格
907円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

身の回りにあふれる誰かのための物語

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 自分はいったいなんのために生きているのか。歯をくいしばり義務をこなすだけで一日が終わる。つらいだけだから、なるべく感じない、考えない。こんな状態で人生に意味があると言えるのだろうか。

 そんな気持ちにとらわれたとき、人はストーリーを必要とする。いくつもの因果関係を材料に、原因・理由や意味・目的という視点で自分自身を説明したくなるのだ。それは誰にとっても必要なことで、ストーリーの助けなしに生きていくのは難しい。ストーリーを他者に示せる形にしたのが「物語」だ。

 こんな観点から見直してみると、身の回りには「誰かのための物語」があふれている。そしてしばしば、他者と自分の物語は反発しあう。

 実話と虚構とはなんなのか。人生に「本筋」と「脇道」は存在するのか。こんな興味深いテーマを語りつくすのが、千野帽子物語は人生を救うのか』だ。十代向けの新書なので親しみやすい文章で書かれているが、中身はずっしり高密度。著者自身の後悔をめぐる切実な物語も紹介されていて、胸にせまる。

 わかりやすいストーリーは確かに人の心をラクにはするが、その反面、他の誰かを責めることに結びつきやすく、もろ刃の剣のように取り扱いが難しい。ストーリーから逃れられない人間が、しかしストーリーに飲み込まれないように生きる方法とは。これこそオトナのためのテーマではないかと思う。

新潮社 週刊新潮
2019年6月20日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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