『物語は人生を救うのか』
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身の回りにあふれる誰かのための物語
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
自分はいったいなんのために生きているのか。歯をくいしばり義務をこなすだけで一日が終わる。つらいだけだから、なるべく感じない、考えない。こんな状態で人生に意味があると言えるのだろうか。
そんな気持ちにとらわれたとき、人はストーリーを必要とする。いくつもの因果関係を材料に、原因・理由や意味・目的という視点で自分自身を説明したくなるのだ。それは誰にとっても必要なことで、ストーリーの助けなしに生きていくのは難しい。ストーリーを他者に示せる形にしたのが「物語」だ。
こんな観点から見直してみると、身の回りには「誰かのための物語」があふれている。そしてしばしば、他者と自分の物語は反発しあう。
実話と虚構とはなんなのか。人生に「本筋」と「脇道」は存在するのか。こんな興味深いテーマを語りつくすのが、千野帽子『物語は人生を救うのか』だ。十代向けの新書なので親しみやすい文章で書かれているが、中身はずっしり高密度。著者自身の後悔をめぐる切実な物語も紹介されていて、胸にせまる。
わかりやすいストーリーは確かに人の心をラクにはするが、その反面、他の誰かを責めることに結びつきやすく、もろ刃の剣のように取り扱いが難しい。ストーリーから逃れられない人間が、しかしストーリーに飲み込まれないように生きる方法とは。これこそオトナのためのテーマではないかと思う。