『英単語の語源図鑑』
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丸暗記でなく「理解」促す イラストならではの「学び直し」
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
ヒット作の系譜のひとつに「大人の学び直し」というジャンルがある。もちろん、学生の時に押しつけられた画一的な内容を単になぞっただけのものでは読者の食指を動かせない。学び「直す」というアクションを起こさせるからには、かつて抱いた苦手意識を払拭させるような仕掛けがしっかり施されている。
今回取り上げるのは清水建二、すずきひろし・著、本間昭文・イラスト『英単語の語源図鑑』。昨年5月の発売からロングランで売れ続け、発行部数は異例の60万部を突破。いまも書店の目立つ位置に堂々と平置きされ話題を集めている。キャッチコピーは「見るだけで語彙が増える」(!)だ。
日本で教育を受けた人にとって、英単語といえばまだまだ丸暗記のイメージが強い。だからこそ「ゴロで覚える」といった荒業なんかも少なからず支持を集めてきたわけだが、本書の場合は単語を「語源」に沿って分解することで、言葉の法則性や単語同士の有機的なつながりを効率的に理解させる点に眼目がある。
とはいえ、似たような趣旨の本なら従来も刊行されていた。本書がベストセラーとなった最大の理由は、1単語ごとに割り当てられた、ポップで機能的なイラストの存在だろう。
例えば「port(=運ぶ、港)」という語から派生する単語(import、support、export、transportなど)を解説する際には、ポーターの姿を記号化したようなイラストを用いる。つまり語源に相当する部分をアイコン化して解説することで、文字だけでは捉えにくい抽象的な概念を直感的に理解させてしまうわけだ。
「イラストというと挿絵のようなものを想像する方もいるかもしれませんが、余計な要素を含んでいると読者が“誤読”してしまう。この極力シンプルなタッチのなかに、著者のみなさんの繊細な配慮が詰まっているんです」(担当編集者)
おかげで塾や予備校からの問い合わせが相次いでいるのに加え、社会人やリタイア組の購買が目立つという。学参書ではなく、良質な「読み物」として認知されている証拠だろう。