教皇フランシスコ…乗浩子著 平凡社新書

レビュー

8
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教皇フランシスコ

『教皇フランシスコ』

著者
乗浩子 [著]
出版社
平凡社
ISBN
9784582859072
発売日
2019/03/18
価格
1,012円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

教皇フランシスコ…乗浩子著 平凡社新書

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 現在のローマ教皇フランシスコが誕生して六年になる。初めての南半球出身で、イエズス会士から選ばれるのも初めてだ。

 この新書は、教皇が現代の国際政治の中でいかに精力的に活躍しているかを詳細に論じている。人柄や霊性の高さということより、二〇世紀における世界的な宗教の復権、南米の政治的宗教的状況を詳しく描きながら、そこから教皇が登場したことの意義を情熱的に描いている。

 国際政治におけるバチカンの教皇の働きは日本では見えにくい。キューバ危機、冷戦への対応、アフリカの内戦への取り組みなど、現代の国際政治の動向を描きながら、そこにどのように教皇が関わったのか、今どのような課題を背負っているのか、鮮やかに示されている。

 共産党、軍部、カトリック教会の民衆を交えた抗争の中で、南米のほとんどの国で軍によるクーデターが生じ、権威主義的な長期軍事政権がいくつも成立した。カトリック教会は、国家宗教となって、国家に依存する傾向が強かった。

 そうした中で、教会は徐々に国家志向から社会志向へと変化し、そのなかで教皇フランシスコが登場した。ラテンアメリカの歴史と新教皇の登場は分けて考えることはできない。彼は教皇になる前から、過激な政治的激動の中で貧しい人々に熱い眼差(まなざ)しを向けていた。この辺りの記述に本書の真骨頂がある。

 教皇は、着任した二年後の二〇一五年、回勅(全教会向け書簡)「ラウダート・シ」を出す。同名の中世の聖人アッシジのフランシスコの「太陽の歌」の一句「讃(たた)えられてあれ主よ」を継承したものだ。地球の自然環境を守ろうとする決意に充(み)ちている。

 教皇の課題は多数ある。バチカン改革、聖職者達(たち)の性の問題、キリスト教諸派の統一(エキュメニズム)、他宗教との対話、共産主義国家との関係など、山積している。

 キリスト教と国際政治の関係を知るために重要で面白い本だ。

読売新聞
2019年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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