柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記 柳家喬太郎著 フィルムアート社

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柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記

『柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記』

著者
柳家喬太郎 [著]
出版社
フィルムアート社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784845918164
発売日
2019/03/26
価格
2,090円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記 柳家喬太郎著 フィルムアート社

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 落語は日本語ネイティブ以外にも通じるか?

 古くて新しい、この問いをめぐって、多くの落語家が、海外公演に挑んできたし、今もなお挑み続けているけれど、本書は、一味違う。

 「海外なんて行きたくなかった」とこぼした柳家喬太郎は、4か国を10日ほどでめぐる落語の旅に出る。本書で、その道中を語り下ろす。

 デンマークの街並みを千葉や池袋になぞらえたり、アイルランドで彼我の怪談の違いを考えたりしながら、旅は続く。英国のケンブリッジでは、敬語をめぐる洞察に膝を打ち、最終地のアイスランドでは、聴衆の日本文化への熱意に励まされる。ただ、「あくまで、落語は芸能」だから、どこの国でも肩肘を張らない。

 出囃子(でばやし)「まかしょ」の響きとともに、即席で作った高座に師匠が座れば寄席になる。演目は、屋台のうどん屋と、夜の街を行き交う人々とのやりとりを描く「うどんや」や、下手な義太夫を無理やり聞かせようとする旦那と、奉公人の苦労を語る「寝床」など、いずれも噺(はなし)を通じて「文化の違いなんて関係ねえよ、同じ人間じゃん」と思わせる。

 「drop word」「drop story」、それが「落語」の英訳だと言われると、確かに納得できる。「落ち」のある「物語」は、人の心を動かす。笑いは、世界に共通する。

 と、なんだか堅苦しい、書評らしい紹介を、「キョンキョン」を自称する師匠は嫌うだろう。なにせ創作落語の編み手だ。歌舞伎町の飲み屋で寝過ごした大学生が、謎の外国人女性スパイに絡まれる「諜報(ちょうほう)員メアリー」をはじめ、古典をふまえた自由な発想に、どれほど大笑いさせられたことか!

 「死ぬ時に落語家でいたい」と願い、脱サラして入門した凄(すご)みは、表紙のようなやわらかな仮面の下にある。本書は、道中の写真を数多く収める。そのさまざまな表情が、落語という芸の底知れなさを、何よりも雄弁に語っている。

読売新聞
2019年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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