ディストピア・フィクション論…円堂都司昭著 作品社

レビュー

8
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ディストピア・フィクション論

『ディストピア・フィクション論』

著者
円堂都司昭 [著]
出版社
作品社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784861827259
発売日
2019/04/27
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ディストピア・フィクション論…円堂都司昭著 作品社

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 ユートピアとは、トーマス・モアの小説の題名に由来する造語で、「どこにも存在しない理想の社会」を意味している。一方、その反対語として使われているディストピアは、フィクションの中には数多(あまた)存在しており、私たちはそういう反理想的社会についてよく知っている。多くの小説やコミックや映画のなかで繰り返し繰り返し活写されるディストピアを享受してきたからである。

 フィクションに限っては、人はユートピアよりもディストピアが好きだ。その心理は、ホラー小説や絶叫マシンを楽しむ心理に似ているのかもしれない。エンタテイメントとして「死」を疑似体験することで、私たちは命の価値を噛(か)みしめ、平凡な日常の輝きを見つめ直すことができる。それと同じメカニズムで、「お話」としてのディストピアに浸ることによって、自分が身を置いている現実の良いところを再確認し、フィクションのディストピアが未来の現実にならないようにするには何を心がけるべきなのかと考える機会を得る。

 本書は四百ページを超える大著だ。分析と評論の対象とされているディストピア・フィクションは、小説では古典の『一九八四年』から『図書館戦争』『わたしを離さないで』『カエルの楽園』など近年の話題作までと幅広く、短編にも目配りしている。映画では「メトロポリス」「ブレードランナー」から「君の名は。」「ズートピア」「シン・ゴジラ」――「ズートピア」のどこにディストピア要素があるの?と、謎解きミステリーを読むような興味をかき立てられる。膨大な数の作品が登場するので、(実際に私はそうしたのだが)本書を読んでから逆戻りで実作に触れることも多くなるだろう。つまり、本書は優れたエンタテイメント・ガイドでもある。一度通読するだけで終わらず、折々に読み返して糧となり、何より「面白い!」評論集だ。

読売新聞
2019年5月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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