『楽天で学んだ100%やりきる力』
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なんでも15分余計にやる。楽天で学んだ「やりきる」ことの大切さ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
2005年4月、30歳だった私は、当時、500人ほどの規模だった「楽天株式会社(以下、楽天)に入社しました。
その後、約10年半在籍させてもらうことになったのですが、その間に起こったこと、経験したことは、私のこれまでの常識や価値観を根底から覆し、数多くの挑戦や経験を通じて大きな自信を得たかけがえのない時間となりました。(「はじめにーー売上高1兆円を可能にした力」より)
『楽天で学んだ 100%やりきる力』(廣田大輔著、朝日新聞出版)の著者はこう記しています。
そして、驚異的な成長を遂げている「楽天」の歴史に一部に参加し、仕事することができたのは、本書のテーマでもある“やりきる”ことがひとつひとつできたからなのだといいます。
目の前のことをやりきると、また次にチャレンジすべき対象が現れるもの。そこで再びやりきることができれば、さらに挑戦しがいのある高いステージが待っています。
人はそうやって夢に近づくのだということを、楽天で学んだというのです。
なお十全化学株式会社の社長である現在は、楽天で得たノウハウを事業に生かし、日々奮闘しているのだそうです。
そんな著者は、仕事を愉しみ、成長して、夢を実現し、人生を悔いなく生きるために必要なのは“やりきる力”であると断言しています。
きょうは、そんな本書の第3章「成長のエンジンを回しつ助ける『やりきるスイッチ』」に目を向けてみたいと思います。
著者がここで強調しているのは、「必ず結果を出すスイッチ」「やりきるスイッチ」を押すことの重要性。
それは、0.1%の努力を継続して100%にし、さらに100.5%にして圧倒的な結果を出すためのスイッチ。その使い方や工夫などを紹介しているわけです。
どんなことでも15分余計にやる
どんな職場、どんな仕事にも共通する、やりきるためのスイッチがあるそうです。それは、いま手がけている仕事で1日15分だけ、ほんのちょっと余計に努力してみること。
15分という時間は、どんなに忙しい人でもつくり出せない時間ではありません。また15分ならば、それほどプレッシャーにもならないはずです。 しかも、15分は1日24時間のおよそ1%にあたります。
つまり、それだけで、1日0.1%の努力の10倍にもなる努力をしていることになります。(112ページより)
ここで著者が引き合いに出しているには、優秀な大工さんのやり方。優秀な大工さんは、必ず最後のひと手間をかけ手仕事を仕上げるというのです。
しかもそのような「最後のひと手間」は、完成後には見ることのできない家の裏側にあるのだとか。
「外からは見えない場所の角材であっても、ささくれ立たないように少しでもカンナをかけておく」
「人がよく歩く廊下や階段の下には、多めにクッションを入れる」
「壁の裏に断熱材を仕込むときには、隙間がないようていねいに詰める」
などなど。こうした、見えないところにかける“ひと手間”こそ、大工職人のこだわりだということ。
つまり最終的には隠れてしまって見えなくなるところであっても、少しだけ時間をかけて最高の仕事をしておきたいという考え方です。
同じように自分の仕事においても、たった15分の手間をかければクオリティが上がるというわけです。(112ページより)
期限を設けてやってみる
「○○ぐらい、○○ごろ、〇〇あたり」というような、日本人にありがちな曖昧な表現は、楽天において一切許されなかったそうです。
なぜなら「いつまでに必ずやるんだ!」という時限爆弾を自らセッティングしない限り、本当の意味での真剣さは出てこないものだから。
いうまでもなく、仕事はスピード感を持って進めなければならないもの。そのためには、自分でデッドラインを決めてやっていく必要があるわけです。
そして、このようにやりきるスイッチを発動させると、結果が違ってくるものだといいます。
客先に提案資料をお持ちすることになったとします。このとき、「資料ができてから、アポを取ろう」と考える人は少なくないでしょう。 資料がそろうまで……などと考えていると、ダラダラしてしまって、どんどん遅れていきます。
まずアポを取る。
何もそろっていないうちに、アポだけ取るのは勇気がいることです。しかし、そうしないと走り始めないのも人間です。 ある意味、自分への叱咤みたいな部分もあるのです。
まずアポを取り、スイッチを発動させると「いつまでにやらないとアポに間に合わない」という危機意識が生まれ、高い集中力が発揮できるのです。(116~117ページより)
自分を追い込む期限ができると、「やる気のスイッチ」が「やりきるスイッチ」に変わるものだということなのでしょう。(115ページより)
成果が見えるまで3か月試してみる
「よし、やりきってみるぞ!」と決心が固まったとしても、それはまだ「やる気のスイッチ」かも。
だからこそ、もしも決心が揺らぎそうになったら、「3か月だけ」と決めて続けてみるべきだと著者は言います。
一生のうちのわすか3か月と考えれば、なんとかがんばれるはず。しかも「やりきるぞ!」と決めて3か月過ごせば、必ずなんらかの成果は出るものだといいます。
ただし、ただやみくもに、がむしゃらな3か月を過ごすべからず。また、おおざっぱな3か月だけで考えていると、自分の進捗状況がわかりにくくなり、「まだ先のことだ」とたかをくくって、仕事のスピードを遅らせたりしかねないそうです。
そこで著者は、次のように具体的な計画を立てることを勧めています。
1. 3か月を1か月単位にします。そして1か月ごとの進捗目標を決めます。
2. 1か月を週単位で分割し、1週間ごとの進捗目標も決めます。
3. さらに、1日ごとに何をすればいいのか目安を立てます。
4. 日々の進捗状況を把握し、しっかりと実行されているかそうか、予定したことより遅れていないかをチェックします。
(122ページより)
ポイントは(4)。もし遅れているのであれば、その原因はなんなのか、打ち手を変える必要はないのか、などを検証しながら仕事をみるべきだというわけです。
大変そうにも思えますが、実はそうでもないのだそうです。
1か月、1週間、1日ごとにプロセスを区切って行動計画を立てるので、仕事の進行管理がしやすくなり、不安が減っていくというのです。
だとすれば、これは試して見る価値があるかもしれません。
ただし突発的に入ってくる仕事も多々あるでしょうから、柔軟性が出せる計画にすることも重要だといいます。(120ページより)
著者は、「個々人が自分自身のなかで、成長のエンジンをなにに対し、どう使うのかを考えてくべき時代」になったと主張しています。にもかかわらず、多くの人は、持っているはずの成長のエンジンを使い切れていないのだとも。
だとすれば本書を通じ、その動かし方をきちんと学んでおきたいところです。
Photo: 印南敦史
Source: 朝日新聞出版