[本の森 歴史・時代]『朝嵐』矢野隆/『鬼神』矢野隆

レビュー

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朝嵐

『朝嵐』

著者
矢野 隆 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120051869
発売日
2019/04/22
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

鬼神

『鬼神』

著者
矢野 隆 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784122067400
発売日
2019/05/23
価格
858円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 歴史・時代]『朝嵐』矢野隆/『鬼神』矢野隆

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

「人が生きることの真理に迫るには、戦うことから目を背けず、真正面から向き合うことこそが必要なのだ」

 矢野隆の作品を読み終えると、いつもこんな著者のメッセージが心の奥に浮かび上がる。

 揺るぎない土台と速度感のあるリズミカルな文体で、彼が生み出した登場人物たちの多くは、皆、現代の倫理観と微妙なずれがある。おそらく、彼は法律や現代の価値観では表現しきれないところにある真実にたどり着くために、戦い続ける男たちを描いているのではないだろうか。それが己を信じ、戦い続ける男たちの心の中にある潔さを、彼の物語から感じることができる理由なのかもしれない。

 そんな著者の真骨頂ともいえる作品が、源氏の棟梁である源為義の八男で、源義朝の弟であり、あの頼朝や義経にとっては叔父にあたる猛将・源鎮西八郎為朝の一生を描いた『朝嵐』(中央公論新社)だ。

 本書には、吾妻鏡に無双の弓矢の達者と記された為朝の、戦うことに対する並外れた情熱と小事にこだわらない度胸、そして敵に臆せず果敢に戦う姿が描かれている。

 為朝は、幼少期から気性が荒く、兄との確執が為朝を孤立させてゆく。そんな中、盗人などを郎党に従え、都で乱暴狼藉をはたらく為朝を、ついには父である為義も持て余し、13歳で勘当し九州に追放するのだった。勘当を言い渡される際に語られた為義の真意は、為朝の生き方を変える一言になるはずだったのだが。

 その結末がどうなるのかは、その後の為朝の暴れっぷりを読んで確かめていただきたい。

 同じタイミングで、著者の文庫最新刊『鬼神』(中央公論新社)も発売された。

『鬼神』は、平安時代の大江山酒呑童子討伐を描いた小説である。酒呑童子を「鬼」としてではなく、「人」だったのだという仮説の元に組み立てられたこの物語は、なんと新鮮なことか。

 物語は、足柄山の奥深くで育った坂田公時(さかたのきんとき)が、羆と喰うか喰われるかという戦いをする場面からはじまる。おおっ。足柄山の公時。これは、まさに大人版の金太郎ではないか。とワクワクしながら読み進める。

 そんな公時の元を源頼光が訪れ、公時を武士として育てるために都へ連れて帰ることに。京にルーツを持たない民を、あからさまに差別する風潮が横行し、しかも陰謀渦巻く都の地になじめない日々を送る公時は、安倍晴明の思惑に巻き込まれ、大江山に住む鬼を討伐するよう命じられる。しかし、偵察で向かった先で出会った頭領の朱天の人柄に、公時の心は大きく揺れるのだった。

 果たして、都の民と山の民は、ルーツの違いを乗り越え、分かり合い、交わることがあるのだろうか。

 いま、おもしろくて、恰好いい時代冒険活劇小説を読みたいなら、迷わず矢野隆をおすすめしたい。

新潮社 小説新潮
2019年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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