スペイン巡礼 緑の大地を歩く 渡辺孝著 皓星社

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スペイン巡礼

『スペイン巡礼』

著者
渡辺孝 [著]
出版社
皓星社
ISBN
9784774406787
発売日
2019/04/24
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

スペイン巡礼 緑の大地を歩く 渡辺孝著 皓星社

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 聖地や霊場をめざす「巡礼」がちょっとしたブームだ。海外ならやはり、キリスト教三大聖地の一つスペイン北部のサンティアゴ・デ・コンポステラへ。美しい自然と点在する小さなロマネスク教会、魅力満点だ。

 私大理事長だった著者は、大学改革を実行せんとして孤立無援となり、辞任する。その前に読んだスペイン巡礼に関する本で、青春時代に欧州を一人旅した際の感動を再びと思いが募る。68歳になった昨年、ツアーでの短期巡礼を経て歩き始める。

 丹念に日記をつけたのだろう、読んでいていっしょに巡礼している気分になれる。ルートさながらに起伏に富む日々は、しばしば道をまちがえるし、30キロ歩く日もあれば、「今日は日曜日。軽めの距離をゆっくり」の日もある。巡礼2日目にピレネー山脈の下りで早々と膝を痛めると、次の目的地へはタクシーで移動し、2泊休む。再開するとすぐ必需品の帽子をなくし、食料品店で紙製の帽子を何とか見つける。失敗か寄り道か、順調な旅ではないことが本書の魅力だ。夕食を一人静かに食べようと思っても、同席者ができるのが旅の常。で、気持ちを切り替えて、楽しく会話しながらワインを空ける。

 コンポステラ到着後、聖堂をのぞくが、つるした大香炉を振る有名な儀式を見られない。列車で大西洋岸のホテルまで行くが、翌日引き返し、運良く儀式を目にする。巡礼を通し、「生きている」ことを実感し、「人生の滓(おり)」も排出できたらしい。お遍路さん経由の人も多いという。

 全行程780キロを34日間で踏破。列車・タクシーでの移動を含めてだが、こういうゆるい巡礼なら好ましい。宿も巡礼向けの安宿(最低7ユーロ=約910円)から五つ星ホテル(266ユーロ=約3万4600円)までさまざま。余剰荷物の搬送方法のコラムもある実用ガイドで、美しいカラー写真も満載。以前、詳しい仏語ガイドブックを買って読んだことがある私は、スペイン巡礼を見果てぬ夢に終らせまいと決意した。

読売新聞
2019年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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