●居士(ほうこじ)の語録 山田史生著 東方書店/物語として読む全訳論語決定版 山田史生著 トランスビュー

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龐居士(ほう こじ)の語録

『龐居士(ほう こじ)の語録』

著者
山田史生 [著]
出版社
東方書店
ISBN
9784497219022
発売日
2019/04/08
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

物語として読む 全訳論語 決定版

『物語として読む 全訳論語 決定版』

著者
山田 史生 [著]
出版社
トランスビュー
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784798701691
発売日
2019/04/10
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

●居士(ほうこじ)の語録 山田史生著 東方書店/物語として読む全訳論語決定版 山田史生著 トランスビュー

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 出家せずに家庭人・社会人のまま仏道修行をする人を「居士(こじ)」という。禅の精神と茶の湯を融合した千利休や、剣・禅・書を極めた山岡鉄舟(てっしゅう)など、僧侶顔負けの居士は多い。歴代の居士のなかでも、中国・唐の●居士(ほうこじ)(?~808年)は別格だ。彼は竹ザルを売って生計を立て、個性的な妻や娘と暮らしつつ、高名な禅僧や禅客にからんで禅問答を繰り広げた。

 ●居士の「好雪(こうせつ)、片片(へんぺん)別処(べっしょ)に落ちず」という禅問答は有名だ。ある時、彼は宙に舞う雪を指し「見事な雪だ。ひとひらひとひら落ちるべきところに落ちてゆく」と言った。雲水(うんすい)(禅の修行僧のこと)は「どこに落ちるのです」ときいた。居士は雲水にピシャリと平手打ちを食らわせ……続きは本書を読んでのお楽しみである。

 思うに、居士と禅僧の関係は、在野研究者と大学教員に似ている。学問の世界では、自由闊達(かったつ)な日曜学者のほうが、沽券(こけん)や体面に縛られるプロ研究者より鋭い指摘をすることがある。●居士は、最強のアマチュアだった。

 そんな●居士の語録を解説する著者は、大学教授なのに、良い意味でプロっぽくない。雪の禅問答についても「雪がひとひらひとひら落ちるべきところに落ちてゆくさまは、ひとが死ぬありさまに似ている」などと深読みと妄想を楽しむ。著者自身も「居士」なのだ。

 そんな著者の手にかかると、お堅いイメージの儒教の古典『論語』も、曰(いわ)くいいがたいモヤモヤだらけの「孔子の語録」になる。プロの学問の職人なら、モヤモヤを明晰(めいせき)に解き明かすのが仕事のはず。だが著者は、本を書くのが楽しくてしょうがない、といった筆致で、嬉々(きき)としてモヤモヤを書き加える。文体は小中学生でもサクサク読めるほど平明で、随所に著者の人生経験や主観が飛び出す。厳粛な訳解書も必要だが、本書のようにモヤモヤ感も含めて古典を心から楽しむエッセイ風の解説書は、人生を豊かにしてくれる。(●は「まだれ」に龍)

読売新聞
2019年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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