天皇の装束 近藤好和著 中公新書

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天皇の装束

『天皇の装束』

著者
近藤 好和 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121025364
発売日
2019/03/19
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

天皇の装束 近藤好和著 中公新書

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 天皇陛下は5月8日、即位後初めての宮中祭祀(さいし)に臨まれた。秋に行われる「即位礼正殿(せいでん)の儀」および「大嘗祭(だいじょうさい)」の日程を宮中三殿に報告する「期日奉告(ほうこく)の儀」で、天皇専用の装束である「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」を着用された。さらに同日午後には上記の日程を伊勢神宮などに報告する使者を派遣する「勅使発遣(ちょくしはっけん)の儀」が行われ、この際の装束は白い「御引直衣(おひきのうし)」であった。これらの装いが「古式ゆかしい」「平安絵巻」などと報道されたことをご記憶の方も多いだろう。

 装束とは、天皇をはじめとする上流階級とその周辺の人々の歴史的着衣である。身分や職掌に応じて厳密に定められたスタイルがあり、まとう人の立場を端的にあらわす。なかでも天皇の装束は、天皇としての地位に特有のもので、その権威を示す意味を持っていた。

 たとえば絵巻物の中では、天皇の容貌(ようぼう)は御簾(みす)などで隠されていることが多い。だが装束を見れば、そこに描かれているのが天皇であることは明らかで、おのずから畏敬の念がよびおこされた。

 著者は有職故実(ゆうそくこじつ)を専門とする研究者である。有職故実とは、公事(くじ)(朝廷の政務や儀礼)についての実践的知識で、朝廷の制度やさまざまな儀式の作法、厖大(ぼうだい)に蓄積された前例などを網羅的に研究対象とする。本書は、もちろん天皇の装束を中心に叙述されているのだが、読んでいくうちに中世の政治運営の方法や宮廷生活の実態についても多くを知ることができる構成となっている。また天皇の装束が、いわゆる「古式」をそのまま踏襲しているわけではない点は、天皇の「伝統」について考えるための手がかりにもなる。

 明治時代以降、天皇や皇族方の服装は洋装を主とするようになった。秋に向けて進捗(しんちょく)していく即位関連儀式は、前近代から伝えられた天皇をめぐる歴史的営為を実見する貴重な機会である。本書で学んでおけば、その機会をより豊かなものとして感受することができるだろう。

読売新聞
2019年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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