マキァヴェッリ 鹿子生浩輝著 岩波新書/不道徳的倫理学講義 古田徹也著 ちくま新書

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マキァヴェッリ

『マキァヴェッリ』

著者
鹿子生浩輝 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004317791
発売日
2019/05/22
価格
928円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

不道徳的倫理学講義

『不道徳的倫理学講義』

著者
古田 徹也 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/倫理(学)
ISBN
9784480072139
発売日
2019/05/07
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

マキァヴェッリ 鹿子生浩輝著 岩波新書/不道徳的倫理学講義 古田徹也著 ちくま新書

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 十六世紀初頭のフィレンツェで政治・外交の実務に携わりながら、『君主論』をはじめとする書物を著したニッコロ・マキァヴェッリ。権謀術数を弄(ろう)する「マキァヴェリスト」という呼び名が、この思想家に関する誤解の産物であることは、すでに多くの研究者が指摘してきた。

 鹿子生浩輝による新著は、研究をさらに進めて、同時代の政治状況と対照させながら、複雑な議論の構造をはっきりと描いてみせる。「徳」の語を赤裸々な暴力という意味で用い、実力による支配を説いたのは、フィレンツェに君臨するメディチ家の当主が、周辺の諸国を征服する場合に限った議論である。それ以外の平常時の君主政においては、「徳」にそうした意味をもたせず、君主が善人であることを要求する。そして古代ローマの共和政の伝統を引き継ぎながら、民衆からの支持に立脚する「市民的君主」となるようにメディチ家に諭した。

 マキァヴェッリの新しさは、神が定めた運命を受けとめるだけに甘んじず、自由意志によってそれをのりこえる人間像を提示したことにある。古田徹也の著書は、この運と道徳との関係をめぐって、西洋哲学史の全体を振り返りながら、独自の考察を展開している。

 ソクラテス以来、哲学者たちは徳の発揮や幸福の実現を論じるさいに、運の問題をいわば夾雑(きょうざつ)物として排除し、どんな状況にも適用できる理論を提示しようと努めてきた。しかし、現実に展開する人間の生に視点を置くならば、運の要素をひきうけながら行動する、複雑性のなかでの倫理を模索せざるをえない。

 古田の思考の出発点にあるのは、現代の英語圏の哲学における、運をめぐる論争であるが、その関心のもち方は、鹿子生の提示するマキァヴェッリの姿とも重なってくる。十六世紀の思想家が古代の歴史を参照したように、現代における思考もまた、哲学史をふりかえることで、深い含意と活力を得るのである。

読売新聞
2019年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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