ストーカーとの七〇〇日戦争 内澤旬子著 文芸春秋

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ストーカーとの七〇〇日戦争

『ストーカーとの七〇〇日戦争』

著者
内澤 旬子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163910284
発売日
2019/05/24
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ストーカーとの七〇〇日戦争 内澤旬子著 文芸春秋

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

 出るまでかけ続ける電話に、つきまといや周囲への誹謗(ひぼう)中傷。評者の周囲でもストーカー被害に遭った人は、身の危険を語っていた。

 いまやストーカーは身近な問題だが、そんな被害にエッセーやイラストで知られる著者が遭遇した。本書は、被害とその後の対応まで一部始終をまとめた実録だ。

 著者は2014年に東京から小豆島に移住。インターネットを介して出会った40代の男と8ヶ月ほど交際したが、異様さを感じて別れ話を切り出した。それが16年4月。ところが、そこから電話が鳴り止(や)まなくなった。

 男は交際中からおかしな傾向が見てとれた。自分が話したいと思うと一方的に連絡し続けるくせに、相手の話はまったく聞こうとしない。電話やSNSなどの異常な攻勢に恐怖を覚えた著者は、ストーカーとして地元警察署に相談する。そこでわかったのは、男が偽名で前科もある事実だった。男は著者の住む島にやってきて、勝手に浮気相手と思い込んだ男性の家まで行こうとする。まもなく男は逮捕される――。

 だが、本書の核はそこから始まる。著者が恐れていたのは、逆恨みや問題の再発だったからだ。そのため被害届を出したあとも起訴にあたって悩む。罰を受けただけで男の内面が変わらなければ、また同じような被害が繰り返される可能性が捨てきれないからだ。

 恐怖に囚(とら)われる中、著者は日々延々と対策を考え続ける。こうしたら男はこう思うのではないか、いや、ああしたら男は……。それだけで相当に疲弊していく様子が伝わってくる。

 リスクや恥ずかしさもありながら、著者がこの経験を明らかにしたのは、ストーカーが依存症に近い精神的な「病」だと気づいたためだ。被害のありようやどのように感じたかだけでなく、どう向き合い、どう対処すべきかも著者は記す。ヒリヒリした実録はストーカーという病を理解してもらいたい切実さに満ちている。

読売新聞
2019年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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