ハワイと福島の「ボンダンス」の交流をめぐる写真家の旅

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キプカへの旅

『キプカへの旅』

著者
岩根愛 [著]
出版社
太田出版
ISBN
9784778316723
発売日
2019/05/22
価格
3,300円(税込)

ハワイの“ボンダンス”から始まった旅は「新しい生命の場所」へ

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 ハワイはリゾート地のイメージが強く、島の本質に触れにくい。写真家の著者もそのひとりで、ハワイなんて関心ない、と思っていた。ところが、日系人と出会って一八〇度転換する。彼らが移住した島々に日本全国の盆踊りが受け継がれ、毎年夏には寺が中心になって各所でボンダンスの催しがおこなわれているのを知り、島通いがはじまった。

 それからはイモヅル式の展開となる。盆の行事が死者の霊を弔うところから日系人の墓に興味を持ち、探しだす。葬儀に参列した人たちを撮った巻物のように長い写真に遭遇し、どんなカメラで撮ったのか追究する。このくだりはさすが写真家だ。一回転して一枚のフィルムに三六〇度の光景を写しとるサーカットというカメラだとわかり、これを担いで墓を撮影してまわる。

 そうした途上で東日本大震災が起きる。マウイでは被災した東北の人々をボンダンスの季節に招待、フクシマオンドが始まると、それまで恥ずかしそうにしていた双葉郡の中高生が生き生きとして、踊りの輪に加わった。「唄を聞いたら体が踊り出す、そんな唄が、十代の彼らの中に確かに在るということ」に感銘を受け、帰国後、福島にも通うようになり、マウイと福島のボンダンスの交流を助けるのだ。

 帰還困難区域の双葉町では住民が離散して盆踊りが途絶えている。でもいつか再開できるときが来るかもしれない。そのときまでマウイの人々に守っておいてもらおうと町の人々が現地に赴き伝授した。人の一生では解決のつかないことを、遠く離れた異国の人に祈りながら託すこの箇所は、本書のハイライトである。

 著者はこの旅をテーマにした写真集『KIPUKA』で二〇一八年度の木村伊兵衛賞を受賞。「キプカ」とはハワイ語で「新しい生命の場所」の意だ。イモヅル式の移動はそれを探し求め、実感させる旅となった。

新潮社 週刊新潮
2019年6月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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