関西弁で少女のサバイブと闘いを描ききった今年の群像新人賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

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今年の群像新人賞は関西弁が飛び交う“少女のサバイブ”

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)


群像 2019年6月号

 公募型の新人賞は数多く存在するのですが、純文学のそれの代表格は、群像新人文学賞、新潮新人賞、すばる文学賞、文學界新人賞、文藝賞。創設年はそれぞれ、一九五八年、六八年、七七年、五五年、六二年です。

 五月八日に授賞式が行われた群像新人文学賞は、評論にも門戸が開かれており(二○一五年からは、群像新人評論賞と名を変えて新たにスタート)、過去、秋山駿柄谷行人中島梓(作家の栗本薫)、清水良典といった俊英が輩出。小説界のみならず、評論界にも貢献度の高い登竜門になっているんです。今回の受賞作は長崎健吾「故郷と未来」。「群像」二○一八年十二月号で選評ともども読むことができます。

 小説のほうもまた、過去の受賞者には錚々たる名が並んでいます。大庭みな子李恢成村上龍村上春樹笙野頼子多和田葉子村田沙耶香(優秀作)、木下古栗などなど。わりあいアバンギャルドな作風が好まれる傾向があり、個人的には毎回受賞作を楽しみにしている新人賞です。

 その最新、第六十二回の受賞作は石倉真帆「そこどけあほが通るさかい」。〈一緒に住んでた婆が死んだのはうちが十九歳の夏の初めやった。うちは実家から学校とバイトに通う大学一年生やった〉という文章から始まるこの小説、会話のみならず地の文も関西弁で成立しています。

 専業主婦のお母ちゃん、地方公務員のお父ちゃん、勉強がよくできる努力家のお兄、父方の祖母である婆、〈うち〉の五人家族の十数年が描かれているのですが、瞠目すべきは婆のキャラクター。それはそれはもう、不快な人物なんです。勉強ができない主人公に〈せやさかいあんとき堕ろしてしまえちゅうたんじゃ〉と言い放つようなモンスター。

 一家はこの婆の暴言に振り回され、主人公は登校拒否ならぬ帰宅拒否の状態にまで陥ります。怒号飛び交う、ただでさえテンションが高い状況を、やかましい関西弁が発揚。わたしは、少女のサバイブと闘いを描ききったこの小説、かなり好きです。松浦理英子をはじめとする選考委員も高評価。先々が楽しみな作家がまた一人誕生いたしました。

新潮社 週刊新潮
2019年6月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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