今年の群像新人賞は関西弁が飛び交う“少女のサバイブ”
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
公募型の新人賞は数多く存在するのですが、純文学のそれの代表格は、群像新人文学賞、新潮新人賞、すばる文学賞、文學界新人賞、文藝賞。創設年はそれぞれ、一九五八年、六八年、七七年、五五年、六二年です。
五月八日に授賞式が行われた群像新人文学賞は、評論にも門戸が開かれており(二○一五年からは、群像新人評論賞と名を変えて新たにスタート)、過去、秋山駿、柄谷行人、中島梓(作家の栗本薫)、清水良典といった俊英が輩出。小説界のみならず、評論界にも貢献度の高い登竜門になっているんです。今回の受賞作は長崎健吾の「故郷と未来」。「群像」二○一八年十二月号で選評ともども読むことができます。
小説のほうもまた、過去の受賞者には錚々たる名が並んでいます。大庭みな子、李恢成、村上龍、村上春樹、笙野頼子、多和田葉子、村田沙耶香(優秀作)、木下古栗などなど。わりあいアバンギャルドな作風が好まれる傾向があり、個人的には毎回受賞作を楽しみにしている新人賞です。
その最新、第六十二回の受賞作は石倉真帆の「そこどけあほが通るさかい」。〈一緒に住んでた婆が死んだのはうちが十九歳の夏の初めやった。うちは実家から学校とバイトに通う大学一年生やった〉という文章から始まるこの小説、会話のみならず地の文も関西弁で成立しています。
専業主婦のお母ちゃん、地方公務員のお父ちゃん、勉強がよくできる努力家のお兄、父方の祖母である婆、〈うち〉の五人家族の十数年が描かれているのですが、瞠目すべきは婆のキャラクター。それはそれはもう、不快な人物なんです。勉強ができない主人公に〈せやさかいあんとき堕ろしてしまえちゅうたんじゃ〉と言い放つようなモンスター。
一家はこの婆の暴言に振り回され、主人公は登校拒否ならぬ帰宅拒否の状態にまで陥ります。怒号飛び交う、ただでさえテンションが高い状況を、やかましい関西弁が発揚。わたしは、少女のサバイブと闘いを描ききったこの小説、かなり好きです。松浦理英子をはじめとする選考委員も高評価。先々が楽しみな作家がまた一人誕生いたしました。