ビジネスエリートが身につけておきたい教養としての「日本食」マナー

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外国人にも話したくなる ビジネスエリートが知っておきたい 教養としての日本食

『外国人にも話したくなる ビジネスエリートが知っておきたい 教養としての日本食』

著者
永山 久夫 [監修]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784046043603
発売日
2019/04/27
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ビジネスエリートが身につけておきたい教養としての「日本食」マナー

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

和食の魅力は世界の人々に浸透し、今や世界の美味なる無形文化遺産に登録されるほど注目を集めている。

(中略) グローバル化が進み世界が近くなるなか、日本人が外国人の方から「日本のアイデンティティは何か?」と聞かれても答えられないという話をよく耳にする。 そんなとき、拠り所のひとつとなるのも日本食だ。

欧米では自国の文化を学んだうえに個々のアイデンティティを確立させている。「食」もその自国の風土が生み育んだ文化のひとつであり、食を語れるようになることは、国際化社会のなかで日本人としてのアイデンティティを築くのに重要なことではないだろうか。(「はじめに」より)

外国人にも話したくなる ビジネスエリートが知っておきたい 教養としての日本食』(永山久夫著、KADOKAWA)の冒頭には、このような記述があります。

著者は長年にわたり、古代から明治時代までの食事の研究に携わってきたという食文化史研究家です。

こうした考え方をベースとした本書は、著者の言葉を借りるなら、グローバル化が進む時代に対応した「和食のお国」の常識百科。

日本食に関するさまざまな知識を盛り込んだ内容になっているのです。

きょうは「作法」についてのあれこれが紹介された第1章「作法に息づく『和の心』を知る」のなかから、「いただきます」と「おかわり」に関するトピックスを引き出してみたいと思います。

【いただきます】食前の挨拶に込められた感謝の心

日本では食事を始める前、両手を合わせて「いただきます」と挨拶をします。

日本人にとっては幼少期からしつけられ、自然と身についている習慣ですが、世界的には食前の挨拶が定着している国は珍しいのだといいます。

食前の「いただきます」は日本特有の挨拶であり、まったく同じ意味のことばは外国のどこを探しても見当たらないということ。

ちなみにフランスには食事を始めるときのことばとして「ボナペティ」がありますが、これは「召し上がれ」という意味。つまり日本の「いただきます」とは、発想そのものが異なるわけです。

では、「いただきます」とはどういう意味なのでしょうか?

そもそも「いただきます」の「いただく」は、山の頂(いただき)に宿る稲作の神様への感謝の心を表すことばに由来したもの。

神様が宿るとされる山の頂上や頭のてっぺんを「頂」と言ったため、「頂く」「戴く」は大切なものを頭の上にうやうやしく捧げ持つことばへと発展したというのです。

さらに中世以降、位の高い人からものをもらったときや、神仏にお供えしたものを食べる際には、頭上に捧げ持つ「押し戴く」動作をしてから食べたため、「食べる」「もらう」の謙譲語として「いただく」が使われるようになったのだとか。

それがやがて、食事前の挨拶である「いただきます」として定着していったのだそうです。

ですから、「いただく」というのは単に食事をもらうという意味ではなく、本来は命を分け与えてくれる自然に対する感謝の気持ちを伝える言葉であることがわかります。

米や野菜、魚、肉などすべての食材には命があると考え、その命をいただくことで、自分が生かされていることに感謝するのです。(17ページより)

そして「いただきます」にはもうひとつ、食材を育てる人や選ぶ人、食事を作る人、配膳する人など、その食事を整えることに携わったすべての人に対する感謝の心を示す意味もあるのだそうです。

すなわち「いただきます」は、命を分け与えてくれた食材や、食事に出されるまでに関わったすべての人々に対して敬意を払い、感謝することばだということ。(16ページより)

【おかわり】もてなしてくれた相手との縁をつなぐ大切な作法

招待された席や訪問先の家などでご馳走になった際、「おかわりはいかがですか?」と声をかけられることがあります。

とはいえそんなときには「素直におかわりをしていいのか」「相手に図々しく思われないか」と遠慮しがちでもあるものです。

しかし作法の面では、一膳ですませるのは縁起の悪い行為とされているのだそうです。

通夜の席では、茶碗にご飯を高く山盛りにし、真ん中に端を揃えて垂直に立て、故人の枕元に供えます。

当然、おかわりはありませんから、これは永遠の別れの象徴として「一膳飯」「枕飯」と呼ばれています。

つまり、ご飯を一膳だけで終えるのは通夜を連想させてしまうということ。そのため、ご飯はおかわりするほうが礼儀にかなっているというわけです。

なお地域によっては、家でご飯を食べるときでも、茶碗に目一杯ご飯を盛らず、ほんのわずかでもいいから必ずおかわりをするという習慣が残っているところもあるといいます。

また、おかわりを頼むときは、茶碗に一口分だけご飯を残して差し出すという作法も

まだ食べきらないうちにおかわりするのは行儀が悪いと感じるかもしれませんが、一口分のご飯が、相手との縁をこれからも続けたい、大切にしたいという気持ちを表すとされているわけです。

食事を終えるときは、一粒残さずきちんと食べます。そうすれば、食事は終えました、お茶をくださいという合図になります。 逆に、もてなす側にまわったときには、客が一口分ご飯を残したら、おかわりのタイミングだと察してあげたいものです。

相手から「おかわりをください」と言われる前に、こちらから声をかけます。(19ページより)

なお、このときには、一膳飯を連想させないように、ご飯は「盛りましょうか」ではなく「よそいましょうか」と言い、一杯目より少なめに入れるのが作法だといいます。(18ページより)

清潔好きの日本人が、なぜ手でつまんで口に運ぶのか、蕎麦をすすって食べる理由はなにかなど、日本人であっても答えられないような「マナーの疑問」にはじまり、“母親の味”として知られる肉じゃがの誕生秘話、土用の丑にうなぎを食べるようになった発端など、興味深いトピックスを満載。

好奇心を心地よく刺激してくれるので、無理なく読み進めてしまえるはずです。

ただし「おいしい話題」が次々と登場するだけに、いつしかおなかがすいてくるかもしれません。

Photo: 印南敦史

Source: KADOKAWA

メディアジーン lifehacker
2019年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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