『能力を磨く』
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学歴が無効化するAI時代に磨きたい。失業しないための「3つの能力」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
これからの時代、「能力を磨く」ことがこれまで以上に重要なテーマになっていくと断言しているのは、『能力を磨く AI時代に活躍する人材「3つの能力」』(田坂広志 著、日本実業出版社)の著者。
多摩大学大学院教授であり、シンクタンク・ソフィアバンク代表をも務める人物です。
ちなみに、その理由は3つ。
第一 能力の急速な陳腐化
第二 学歴社会の崩壊
第三 AI時代の到来
(「序話 なぜ、いま、能力を磨かねばならないのか」より)
それぞれについての解説を確認してみましょう。
第一の理由、「能力の急速な陳腐化」とはなにか
「職業人として、仕事で優れた業績を上げ、周囲から高い評価を得たいのであれば、自身の職業人としての能力を高め、磨いていかなければならない」。
そのような考え方は昔から、常識であるとされてきました。たしかにひと昔前であれば、それは事実だったかもしれません。
若い修行の時代を通じて能力を身につければ、その能力を活用することによって、生涯にわたり仕事を続けることができたからです。
いわゆる「一生、飯が食える」状態になれたということ。ところが、現代は違うと著者は言うのです。
「過去七年の変化が、一年で起こる」、もしくは、「過去の一八年の変化が、一年で起こる」と言われるように、社会や市場、産業や職業の変化が激しくなっている時代である。
そのため、若い修行の時代に苦労して身につけた仕事の能力も、その社会や市場、産業や職業の変化に伴って、急速に陳腐化してしまうため、誰といえども、常に新たな能力を身につけ、磨いていかなければならなくなっている。(16ページより)
そして、この問題をさらに切実なものにしているのが、「人生、百年時代」と呼ばれる変化。
もちろん人間としての寿命が長くなることは喜ばしいことですが、誰にも百歳近くまでの人生が与えられるようになるとすれば、ひとつの人生のなかで、職業そのものも何度か変えることになる可能性も出てくるわけです。
すると、そうした変化に伴い、生涯を通じて新たな能力を身につけ、磨き続けていくことが求められるようになるということ。
すなわちそれが「能力の急速な陳腐化」の意味するところであり、「能力を磨く」ことが求められる第一の理由。(15ページより)
第二の理由、「学歴社会の崩壊」とはなにか
20世紀の工業社会の時代は、はるか彼方の過去のもの。
現在の21世紀初頭の日本社会は、すでに情報社会、知識社会をも超え、「高度知識社会」と呼ぶべきものになっていると著者は主張しています。
しかし、そうであるにもかかわらず、現在の我が国の教育制度は、いまだに工業社会における人材育成のパラダイム(基本的枠組み)から脱することができていないのも事実だというのです。
たしかに20世紀の工業社会を振り返ってみれば、我が国の教育制度の下で生まれてくる「高学歴」の人材は、仕事においても優れた能力を発揮する人材でした。
いってみれば「勉強ができる」ということが、そのまま「仕事ができる」ということを意味した時代であったということです。
しかし、二一世紀の高度知識社会においては、現在の我が国の教育制度の下で生まれてくる「高学歴」の人材は、必ずしも、仕事において優れた能力を発揮する人材ではなくなってきている。
なぜなら、高度知識社会とは、絶え間ないイノベーションが続く社会であり、大企業や大組織よりも、ネットワーク的に結びついた個人が活躍する社会であり、魅力的な夢や志を語り、人間関係力や人間力によって仲間を集め、優れた仕事を成し遂げていくリーダーシップが求められる社会である。(18ページより)
したがって、これからの高度知識社会において活躍する人材とは、たとえば、
「イノベーション力」
「ネットワーキング力」
「リーダーシップ力」
(18ページより)
といった力を発揮できる人材だということ。
しなしながら日本の現在の教育制度は、高度知識社会に必要とされるこうした人材を育てる制度にはなっていないと著者は指摘するのです。
そのため、現在の社会においては、「高学歴の人材」が期待ほどに活躍できないという現象がしばしば起こっているのだとか。
別な表現を用いるなら、「勉強ができる人材」が「仕事ができる人材」を意味しない状況になっているということ。
高度知識社会において「仕事ができる人材」になっていくためには、「学歴」に安住することなく、「勉強ができる」という能力に慢心することもなく、職業の現場で求められる高度な能力を身につけ、磨いていくことが必要。
それが「学歴社会の崩壊」という意味であり、「能力を磨く」ことが求められる第二の理由だそう。(17ページより)
第三の理由、「AI時代の到来」とはなにか
著者によれば、これからの時代に「能力を磨く」ことが求められる理由としては、この第三の理由がもっとも大きいのだそうです。
これからは人工知能(AI:Artificial Intelligence)の開発が進み、それが広く社会に普及していくわけですが、そんな「AI時代」には、これまで人間が担ってきた仕事の多くがAIによって代替されていくから。
そのため、我々は、AIでは代替できない能力、人間にしか発揮できない高度な能力を身につけ、磨いていかないかぎり、いわゆる「AI失業」という状況に陥ってしまう。(20ページより)
それが「AI時代の到来」という意味であり、「能力を磨く」ことが求められる第三の理由だといいます。
これら3つが「能力を磨く」ということが重要なテーマになっていく理由だというわけですが、もっとも大きな理由は、最後の「AI時代の到来」なのだとか。
事実、現時点でも多くの書籍や雑誌、あるいはウェブメディアが、トピックとして「AI失業」を取り上げています。
AIの導入と普及により、どのような職業がAIに置き換わっていくか、どのような職業の人間が失業することになるのか、などなど。
ところがそれらの多くは、「これからAIによって、どのような職業が淘汰されるか」についてはさまざまな形で語っているものの、重要な部分が抜けているのだと著者。
これからのAI時代において、「淘汰されない人材」となり、さらには「活躍する人材」となるためには、どのような能力を、どのようにして磨いていくべきかについてはあまり語られていないということ。
だからこそ、本書において著者は、そのことについて切り込んでいるわけです。(19ページより)
こののち語られるのは、「AI時代の到来によって、人材に求められる能力がどう変わるか」「学歴社会の崩壊が、いま、どのように起こっているか」、そして「上記『3つの能力』をいかにして身につけ、磨いていくか」ということ。
その視点は、多くの気づきを与えてくれるはずです。
Photo: 印南敦史
Source: 日本実業出版社