日米地位協定 山本章子著

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日米地位協定

『日米地位協定』

著者
山本 章子 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784121025432
発売日
2019/05/22
価格
924円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日米地位協定 山本章子著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 日米地位協定について、客観的な観点から整理し直した待望の書である。日米地位協定をめぐる研究は、ジャーナリスト主導で進んできた。その理由の一つは、政治イデオロギー色が濃すぎたことだろう。研究者層の「知的怠慢」を反省する著者ですら、本書を書くことには「大きな恐怖」があったと述懐する。それでも執筆を決心した背景には、著者の沖縄への「限りない感謝の念」があった。

 日米地位協定によって在日米軍には数々の特権が与えられている。米兵による刑事事件や、米軍機の墜落事故などの際に、われわれはそのことを思い知らされる。なぜそうなのか。著者は、丹念に歴史的な経緯を整理して説明していく。

 著者の問題意識は、日米地位協定の運用改定の可能性に向けられている。しかし著者は、イデオロギー的な言説に溺れることもしない。ドイツやイタリアが地位協定を改定していったのは、互恵性を高める過程においてであった。両国はNATO(北大西洋条約機構)軍の域外派遣に協力しながら、改定を成し遂げた。「憲法九条とこれを支持する世論のもとで防衛関連の法律の整備が不十分」な日本とは状況が異なる、という著者の指摘は、重たい。

 また著者は、「日米安保条約の根幹的な問題とは、同盟関係を規定する条約と基地協定が一体となっていること」だと指摘する。米軍の撤退は同盟関係の解消となる。そのため米兵による不祥事が、地位協定の改定にはつながらない。1990年代の北朝鮮核危機をめぐって日本の役割が再確認された時期は、「新しい同盟関係を構築するまたとない機会だった」が、基地の移転が提案されただけで、今日に至っている。

 地位協定は、日米安保体制を中核とする日本の安全保障の仕組みに根差した深い問題である。だからこそ本書は、イデオロギー的立場をこえて、今後の議論の基盤となっていくことだろう。

 ◇やまもと・あきこ=1979年生まれ。琉球大専任講師。専攻は国際政治史。著書に『米国と日米安保条約改定』。

読売新聞
2019年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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