結婚願望のない39歳の女性が家庭を持つことの意味を考える、柴崎友香の最新作

レビュー

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待ち遠しい

『待ち遠しい』

著者
柴崎 友香 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784620108414
発売日
2019/06/08
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

結婚願望のない39歳の女性が 家庭を持つことの意味を考える

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 結婚して、子どもを産み、家庭をもつ人がマジョリティーを占めるなか、生涯シングルで通す人が年々増えつつある。柴崎友香の新作は、両者のあいだに暗黙のうちに横たわる隔たりへの問いかけだ。解決策を示すのではなく、それぞれの拠り所に光を当て、理解をうながす。

 主人公・北川春子は会社勤めの三十九歳。美大出身だがキャリア職ではなく、モノ作りの欲求は余暇に作る消しゴム版画で充たしている。結婚願望はなく、一人暮らし十年になる淡々とした日々だ。

 春子が住んでいるのは、大家と同じ敷地内にある古い二階家である。大家が亡くなると、東京から娘のゆかりが越してくる。新しい大家です、と彼女がいきなり自己紹介をしにくる場面で話は幕を開ける。

 人づきあいが好きで、しゃべりだすと止まらないゆかりは春子の苦手なタイプ。でもそのリズミカルな言動に徐々に引き込まれる。母家の裏には結婚したばかりのゆかりの甥が住んでいる。ゆかりに夕食に誘われて家に行くと、そこには甥の嫁・遠藤沙希がいた。いまどきの若者の彼女は、北川さんは、一人暮らしですか? 変わってますね、などと思うままを口にするが、彼女の率直さが、むしろ自分の現実を振り返るきっかけになったりする。

 ゆかりとニュージーランドにいる娘の確執、離婚して女手ひとつで子育てをした実母と沙希との複雑で密接な関係、沙希と夫・拓矢の未熟で危うい夫婦関係など、それぞれの抱える問題が、小さな事件が起きるごとに明るみにでて関係をゆるがす。

 同じ敷地にいるゆえに春子もそれに巻き込まれながらも、自分の生き方を見つめ、彼らとつながることで生きる共感や歓びを味わう。そんな春子の「これから先が待ち遠しくなるようなことを、言えるようになりたい」という人生へのほのかな期待と決意の言葉は、著者自身の本音にも聞こえる切実さがあった。

新潮社 週刊新潮
2019年7月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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