ドイツの現役弁護士が描く人気ミステリー第3弾

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

刑罰

『刑罰』

著者
フェルディナント・フォン・シーラッハ [著]/酒寄 進一 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488010904
発売日
2019/06/12
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

独の現役弁護士が描く人気ミステリの“第3弾”

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 ドイツ発ベストセラー、みたび。

 現役の刑事事件弁護士であるフェルディナント・フォン・シーラッハは二〇〇九年、法廷で扱われた事件を綴るという連作形式の短篇集を発表した。『犯罪』の題名で邦訳も出たこのデビュー作は、全世界的なベストセラーになる。翌年発表の第二短篇集『罪悪』(ともに創元推理文庫)でもさまざまな犯罪が描かれたが、中には法で裁くことが難しいものも含まれていた。そうした事件を扱うことでシーラッハは、人の心の複雑さを陰画として浮かび上がらせたのだ。

 新刊『刑罰』は『犯罪』『罪悪』の系譜に連なる作品集であり、十二篇が収められている。共通項は、作中で罪を犯した者たちがなんらかの理由で刑罰を免れていることである。

 巻頭の「参審員」は、裁判員制度を描いた角田光代『坂の途中の家』(朝日文庫)に似た設定の話で、追いつめられた被告人の妻の言葉が実に重い。「奉仕活動(スボートニク)」の主人公は、共感できない依頼人のために働かなければならなくなった新米弁護士だ。彼女は個人的な正義感と職務の間に挟まれて苦悩するのである。この二篇はともに、人間を裁く法がいかに不完全かを読者に痛感させるだろう。

 いくつかの話の中では、法解釈の不備や盲点のために思いがけず無罪放免される者が描かれる。ただし、そうした法制度の欠陥を衝くこと自体は、作者の目的ではないはずだ。少年が犯した恥ずべき行いについての話である「臭い魚」では、裁きが行われなかったため関係者たちが現状のまま放置されることになる。哀切な「友人」は、我が身に罰が下ることを待ち焦がれた男の物語だ。刑罰は自身の行いに終止符を打つことでもあり、それがないために永遠に過去を引きずる者もいるのだ。

 ミステリーとしては、結末まで行き着いた後で絶対読み返したくなる「ダイバー」、「テニス」の二篇がいい。人間の殺意の気まぐれさをさらりと、しかし踏み込んで描いている。

新潮社 週刊新潮
2019年7月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加