会社を辞め1年間芥川賞全180作品を読破した著者渾身のガイドブック

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芥川賞ぜんぶ読む

『芥川賞ぜんぶ読む』

著者
菊池良 [著]
出版社
宝島社
ISBN
9784800292513
発売日
2019/05/25
価格
1,650円(税込)

全180作品が網羅された「芥川賞」のガイドブック

[レビュアー] 西田藍(アイドル/ライター)

 芥川賞は年に二回選考される文学新人賞で、雑誌に掲載された中短編の作品から選ばれる。八十四年の歴史があり、時代を切り取った瑞々しい作品が選ばれている。著者は会社を辞め、一年間、全百八十作品を読破し、芥川賞そのものと向き合った。大きな声では言えないが、私も受賞作のほとんどは未読であった。タイトルは知っているけれど、話題作は読んだけれど、興味はあるけれど……そんな方にこそおすすめだ。

 あんなに知名度のある賞なのに、全く目にしたこともない作家、作品名に当たるというのも少し不思議な気分で、書籍化された作品には推定部数も併記されているものだから、作家という職業の厳しさと眩しさも感じる。同じ時代ながら知らない世界をのぞき見たり、全く違う世代ながら、なにか似たものを感じたり、私が文学に求めていたものを思い出させてくれた。

 テーマごとに読むのもおすすめ、という本書のアドバイスに従い、国際結婚をテーマにした作品を探した。初回は昭和十三年、初の女性受賞者、中里恒子の「乗合馬車」「日光室」、ほかにも数作見つけた。まとめて読むのも面白そうだ。

 十四歳の頃、志望校の卒業生に芥川賞作家がいることを知った。綿矢りさの十九歳での最年少受賞が話題になっていた時期で、文学少女を気取っていた私は、早速受賞作『蹴りたい背中』を読み、根拠もなく芥川賞を身近に感じていた。先の高校を中退し、そのままブラブラしていたが、十九歳を過ぎたとき、小説を書いてもいないのに、「最年少受賞を逃してしまった」と思った。

 表紙にも描かれているピンクの髪の女性は、高校を中退し芥川賞に憧れる十九歳。久田川龍子ちゃんである。平成受賞作を紹介するページの漫画の主人公なのだ。龍子……龍子! 彼女に感情移入をし、少し頬を濡らしたのだった。

新潮社 週刊新潮
2019年7月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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