日米地位協定が招く日米同盟の弱体化
[レビュアー] 小飼弾
『日米地位協定』(山本章子)のオビは問うている。なぜ、在日米軍による事件は頻発し、「思いやり予算」は増えるのか、と。日米地位協定がそれを許しているからだろうと評者も思っていた。しかし条文に「思いやり」なんてあるわけはない。ないからこその「思いやり予算」であり、自国民より米軍を優先しているかにすら見える本邦政府のふるまいは条文だけでは説明がつかない。本書は指摘する。日米地位協定は、条文ではなく、両政府が別途作成し、今世紀に入るまではその存在さえ明かされていなかった「合意議事録」に基づいて運用されてきたからだ、と。
何が合意されているかというと、「米軍の扱いは以前と変わりませんよ」ということ。なぜ沖縄に米軍が集中するかもこれでわかる。「以前」が異なるのだ。安保条約改定に伴い行政協定が地位協定へと全面改定された時点で日本国は主権を取り戻していたが、沖縄はまだ占領下。どちらの「以前」が米軍にとって都合がよいかは言うまでもない。
しかし一方的な都合だけを通していてはどうなるか。「日米地位協定が抱える問題を放置することは、日米安保条約の脆弱性につながる。日米同盟を盤石にするためには、この問題から目をそむけずに解決する必要がある」と著者は危惧する。かつてはイランだってイラクだって米国の同盟国だったのだ。日本が米国を裏切るなんてあり得ない? 第一次世界大戦で連合国だった頃の日米もそう思っていたでしょう。