脳と睡眠の仕組みでヤセる。ストレスゼロで始めるダイエット
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ダイエットを成功させるには、欲望に打ち勝つ強い心が必要だと思われがちです。
しかし冷静に考えると、それはちょっと不自然な話だと指摘しているのは、『脳と睡眠の仕組みでみるみるヤセる! ストレス0(ゼロ)ダイエット』(菅原洋平著、詩想社)の著者。
ダイエットとは、自分の体重を適正体重に戻したり、その適性体重を維持したりする行為であり、体重を左右するのは意志の強さではなく、食べ物の摂取や消化、吸収、運動や代謝といった生理学的なメカニズムです。(「はじめに」より)
心理的な問題だと思っていたダイエットを、生理的な問題に戻してみるべきだという発想。
つまり、生理学的な仕組みを変えてしまえば、ダイエットはうまくいくということです。
そこで本書では、「食べすぎていないのに太ってしまう」「意に反して食べてしまう」というような現象について、それがなぜ起こり、どうすれば防げるのかを生理学的に解説しているのだといいます。
きょうは第2章「『エンドレス食べ』をやめられる方法のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみることにしましょう。
食べると脂肪が5倍増えやすい時間帯
満腹ホルモンのレプチンには、生体リズムがあるそうです。
そのため1日の時間帯で、分泌が高まる時間帯とそうでない時間帯があるというわけです。
マウス(ハツカネズミ)の脂肪細胞を摘出して調べた研究では、時計遺伝子の存在が認められました。
時計遺伝子によって、レプチンの分泌は、活動期である暗期(人間では昼間)に高まり、休息期である明期(人間では夜)に低下していて、血中のレプチン濃度も同じリズムになっていました。
このレプチンのリズムをつくっている脂肪細胞の時計遺伝子では、BMAL1(ビーマルワン)が特に強い影響力を持っていると考えられています。(64ページより)
BMAL1は、脂肪細胞の働きを調節する重要な役割を果たしているもの。
たとえばコレステロールの合成を活発にしたり、脂肪酸の分解を抑えて細胞のなかに脂肪がたまりやすくしたりするのだそうです。
そして人間のBMAL1の1日のリズムは、朝起きて夜眠る生活の場合、午前中から15時ごろまでが少なく、18時以降は高まっていくといいます。
しかも18時以降の高まりは急激で、15時に対し、22時の時点では約5倍。
つまり、15時に食べたものにくらべて22時に食べたものは、脂肪が5倍も増えやすくなるということ。(64ページより)
食べない対策1:平日は残業前に夕食をとる
著者によれば、同じものを食べたとしても、食べる時間帯が遅くなるだけで脂肪は増えるのだそうです。だとすれば逆に考えると、食べるものを制限しなくても、時間帯だけ変えればよいということになるはず。
そこで、ダイエットをする人が食べたいものを我慢するストレスと直面しないように、次の2つの方法を提案しています。
1.平日は残業前に夕食をとる(あるいは分食)
2.休日は夕食の時間を30分早める
(66ページより)
それぞれについて、くわしく見ていきましょう。まずは(1)。
働き方改革が叫ばれているとはいえ、繁忙期などには帰宅が23時をすぎてしまうという人はまだまだ多いのではないでしょうか?
しかし残業で帰宅が遅くなると、必然的に夕食も遅くなります。だとすれば、どれだけ手早く食べても、24時すぎに就寝するのが精一杯。
それでは、普通に食事をしているだけだったとしても脂肪は何倍もたまりやすくなるもの。だからこそ著者は「残業前」に注目しています。
そこで、BMAL1のリズムを知ったうえで、残業前に食事をして帰宅後には食べないか少量を食べるだけにとどめる、という方法をとってもらいます。
もちろん、残業がさらに長くなってしまわないことが前提です。(67ページより)
習慣化している食事時間を変えるのは、なかなか難しいもの。
「残業前だとまだおなかがすいていない」とか、「これから仕事がはかどるタイミングで中断するのは効率が悪い」と感じられることもあるかもしれません。
しかし、それはあくまで目先のこと。「長期にわたって自分のハイパフォーマンスをつくるにはどうしたらよいか」と俯瞰してみることが大切だといいます。
その際、「BMAL1の仕組みにしたがって夕食を前倒ししたほうが長期的に仕事と健康管理の効果は高まる」と考えられると実行しやすいそうです。(66ページより)
食べない対策2:休日は夕食の時間を30分早める
普段の食事時間は生体リズムとは関係なく、なんとなく決まっていくものです。なぜなら私たちの脳は、意図せずに行動を習慣化するものだから。
しかし脳は、とても燃費の悪い内蔵なのだといいます。新しい行動を起こすたびに大量のエネルギーを消費してしまうので、それを防いで省エネを実現するため、前日までの行動をなぞるように行動するわけです。
そんな特徴があるからこそ、平日の夕食時間が遅くなると、休日の夕食時間も自然に遅くなる傾向が。
平日の夜中24時に夕食をとる人が、休日の18時に夕食をとっているというようなケースは少なく、たいてい夕食時間は21時ごろになるというのです。
多くの場合、平日の夕食時間が遅いのは、残業で帰宅が遅いから。しかし休日の夕食時間が遅くなるのは「なんとなく」なので、改善の余地があることになります。
そこで試しに、休日の夕食の時間を30分だけ早めてみることを著者は勧めています。たとえば、いつもの夕食が21時なら20時30分に、19時なら18時30分にしてみようということ。
著者がそれを提案したところ、実際に試して見た人から「時間にすごく余裕ができる」「時間を有意義に使えた感じがする」といった感想が返ってきたそうです。
BMAL1のリズムに合わせて夕食を早めるのは、食事内容を変えずに脂肪をためにくくすることが目的です。
でも、夕食後の時間が増えることで気持ちの余裕が生まれることをメリットに感じる方が多いようです。(69ページより)
なお、夕食時間を早めるという対策の邪魔になるのが、テレビ番組の時間帯。夜の生活スケジュールが、見たいテレビ番組に左右される人が多いからです。
休日の夜に見るテレビが決まっている場合、見る番組が変わると脳にとって新しい要素が増えることになり、従来のパターンを崩すのに労力がかかるわけです。そのため、夕食時間を変えるのは面倒だと感じるかもしれません。
しかし、そんなときは実験だと思ってやってみることが大切だと著者。
すべてのゴールは、生活を心地よくすること。遅い時間の食事を心地よいと感じていたら、それはいつもどおりのタイミングだからです。
でも、「パターンを変えたら、新たな心地よい時間が生まれるかも」と軽い気持ちで試してみれば、意外にあっさりと生活スケジュールを変えることができるものだといいます。(68ページより)
著者は、リハビリテーションの専門職である作業療法士。
能動的に医学情報を活用してもらうことでハイパフォーマンスをつくり、結果として病気を防ぐことを実現させるため、企業を対象として研修を行っているのだそうです。
そんな、さまざまな事例を目の当たりにしてきた立場にあるからこそ、本書の内容はとても実用的。実践してみては、なんらかの効果を実感できるかもしれません。
Photo: 印南敦史
Source: 詩想社