<東北の本棚>夢を伝え合い心の交流
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災で甚大な津波被害を受けた東松島市宮戸小学校(現宮野森小)で、教諭の著者が実践した図画工作を中心とした「宮戸復興プロジェクトC(チルドレン)」の記録。プロジェクトCは、ICT(情報通信技術)を活用した国際交流へと発展し、その過程で心に深い傷を負った子どもたちが傷を癒やし未来へ歩き出す様子を詳しく記した。復興教育の在り方を考えさせられる。
震災時は、子どもたちを含めて多くの地域住民が避難所生活を強いられた。学校再開後、子どもたちの笑顔が少ないことに気付いた著者は「つらい過去や現在を見つめ、さらに未来をつくろうと前を向いて生きる教育が必要だ」と痛感したという。
2011年5月、10年後の宮戸を一つの壁画に表現する「プロジェクトC」を立ち上げ(1)明日の宮戸に向けて夢をもって表現する(2)一人一人の希望につながる思いを大切にする(3)家族、地域の人に自分の夢と希望が伝わるものにする-の3点を重視して指導した。全児童29人の心が一つとなって完成した壁画は、多くの人の心を揺さぶった。
壁画は、外国の子どもとの交流を進めるNPO法人「地球対話ラボ」との出会いを生み、スマトラ沖地震(04年)で津波被害を受けたインドネシア・アチェの子どもたちとの交流へと発展する。著者は「ビデオ通話で互いに故郷の良さを伝え合い、自分の夢を他者と比較することは、コミュニケーション力を高め自分の考えを内省する深い学びを生んだ」と総括した。
交流を重ねる中で実践した、タブレット端末やドローンなどのICT機器を使った教育活動の実践例の紹介もある。
著者は石巻市在住。上越教育大大学院修了。08年に宮戸小に赴任し、18年から登米市北方小の教頭。
日本地域社会研究所03(5397)1231=1500円。