『飢えと食の日本史』
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<東北の本棚>市場経済の落とし穴も
[レビュアー] 河北新報
幸せなことに今の日本で飢えることはめったにない。しかし歴史を振り返れば日本列島はしばしば凶作に襲われ、その度に多くの人が飢えや疫病で死んだ。本著は飢饉(ききん)が発生する経緯やメカニズムを探り、生き残りを懸けた民衆の行動を描く。
著者によると、飢饉は冷害や凶作が原因といった単純な図式ではないという。特に米相場の形成が進んだ江戸時代は、凶作時に米価が急騰して都市住民の生活を直撃する例が顕著になった。
藩がもうけを狙って領民から米を安く買い上げ、領外に高値で売りさばいた結果、翌年の不作に耐えきれず大打撃を受けるなど「市場経済のわな」に陥る例も相次いだ。飢饉は人災、政災でもある。
民衆は縄文時代さながらに木の実や魚を狩猟採集して生き抜いた。ヒエなどの雑穀も保存性に優れ、飢餓をしのぐ手段となった。「ぜひ偏見を持たず雑穀を食文化に取り入れたい」と著者は提案する。
市場経済下で飢饉が起きた江戸時代の図式は現代社会にも当てはまる。農産物が国境を越えて動く今、食料を輸入に依存している日本に再び飢饉が発生しない保証はどこにもないことを忘れてはなるまい。
著者は宮城学院女子大名誉教授、東北芸術工科大客員教授。
吉川弘文館03(3813)9151=2376円。