はっとりさんちの狩猟な毎日…服部小雪著 巻末エッセイ・服部文祥 河出書房新社

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はっとりさんちの狩猟な毎日

『はっとりさんちの狩猟な毎日』

著者
服部 小雪 [著]/服部 文祥 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309027975
発売日
2019/05/22
価格
1,650円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

はっとりさんちの狩猟な毎日…服部小雪著 巻末エッセイ・服部文祥 河出書房新社

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 服部家は横浜市の郊外に居を構えている。夫婦と2男1女の5人家族だ。妻の小雪さんは美大のワンダーフォーゲル部出身で、季節を感じられる庭や採れたての野菜の味を大切にする自然に近い暮らしがしたいと思っていた。鶏を飼って卵をとり、犬や猫も仲間に加わった。小雪さんが20年余にわたる服部家の道のりを、イラストと文章で綴(つづ)ったのが本書である。

 パステルカラーの色彩はほんわかムードだが、服部家のナチュラルライフは刺激が強い。夫の文祥さんは登山家で、食糧を現地調達するサバイバル登山の実践者。過酷な自然に身ひとつで立ち向かう行為を伝える文筆家でもある。デビュー作の表紙では、不敵な笑みをうかべて魚の皮を口で引き剥いでいる。妻として、この迫力についていくのはしんどかろう。

 文祥さんは狩猟免許をとって、鹿やイノシシなどの獲物を持ち帰るようになった。子供たちやご近所さんまで動員して鹿を解体し、肉の部位にあわせて調理するのは日常の光景だ。鹿肉の味は一期一会で、それぞれの鹿がどのように生きてきたかが、そのままあらわれている。森の香りを噛(か)みしめ、鹿の生命力を分けてもらっていることが実感できるという。

 危険な山に挑む夫を送り出し、待ち続けるのは辛(つら)い。不安や心配を口にすると、「呪いをかけないでください」と言われてしまう。長男が生まれたばかりの頃、「俺、年末年始は山でいないから」と置き去りにされて、小雪さんは一生恨んでやると思ったそうだ。

 野生には野生の、巷(ちまた)には巷の理屈がある。大人だけならともかく、子供を育てるには常識や世間体も大切だ。小雪さんは小雪さんのサバイバルを生きぬき、だんだん腹を括(くく)っていく。そして辿(たど)りつく最終章は「ありふれた一日」。

 ところが文祥さんの巻末エッセイのタイトルは「普通でいてくださいと言われても無理です」。ああ、やっぱり小雪さんはえらい。

読売新聞
2019年6月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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