デモクラシーの宿命…猪木武徳著

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デモクラシーの宿命

『デモクラシーの宿命』

著者
猪木 武徳 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784120052026
発売日
2019/06/07
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

デモクラシーの宿命…猪木武徳著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

 「デモクラシーとは、これまで歴史的に存在したあらゆる政治形態を除けば最悪の政治形態である」

 1947年11月の英国下院でのチャーチル元首相の演説の一節だ。皮肉屋チャーチルの面目躍如たるものがあるが、デモクラシーの欠陥と限界を見据えた見事な表現でもある。

 今や世界を席巻しているポピュリズム、トランプ大統領の登場で一挙に顕在化した「一国主義」や「排外主義」……。こうしたデモクラシーに付きまとう宿命を前に、自由と平等を価値理念とするデモクラシー再生のために何が必要なのかを必死に模索しようとしている。

 著者が何よりも強調するのが歴史や古典から学ぶことである。アリストテレスやアダム・スミス、トクヴィル、福沢諭吉らの著作をふんだんに引用して、著者が導き出した処方箋を簡略化して示してみよう。

 第一は、極端を排し、「バランス感覚を失うな」ということである。すべてを改革できるという幻想も、すべては運命であるという諦観も避けながら、「中間的なもの」の重要さを認識することである。

 第二は「短期の目的合理性」を追求することに潜む陥穽(かんせい)を認識することである。高等教育においてしばしば「即戦力」や「実践性」が強調される。しかし、それは決して長期的な人材育成や国力の増強につながらない。成果主義や能力主義といった短期の損得勘定が日本経済を衰退に向かわせているのではないのか。

 マスコミも厳しく問われている。「堅実な読者が求めるのは、根拠のない楽観論でもなければ、ただ『権力は悪だ』と言いつのる『正義』を装う悲観論でもない。その双方を越えた長期的なヴィジョン(展望)を意識した議論なのだ」

 猪木さんの一連の著作の魅力は常に文明史的視点を忘れず、ふくよかに歴史を描いていることである。本書もまた、私たちが置かれている時代状況について鋭角的、多角的に大きな見取り図を示してくれている。

 ◇いのき・たけのり=1945年生まれ。大阪大名誉教授。著書に『経済思想』『自由と秩序』など。

読売新聞
2019年6月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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