週刊誌を「裏表紙から開かせる男」極上の世相講義

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山藤章二の四行大学

『山藤章二の四行大学』

著者
山藤章二 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784022950222
発売日
2019/06/13
価格
869円(税込)

書籍情報:openBD

誰もが開校できる風刺絵作家の活字の大学

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 山藤章二著『山藤章二の四行大学』は四行の文章群で構築された、活字の大学である。学長は、週刊誌を「裏表紙から開かせる男」といわれた風刺絵作家だ。

 1976年に連載が始まった「ブラック・アングル」は、休止をはさんで、40年以上を経た現在も続いている。鋭い批評性とユーモアを合わせ持ったイラストはもちろん、そこに添えられた一文がまた見事な“寸鉄”となっている。

 ときどき、「戯画」の代わりに、筆跡もそのままの「文章」が掲載されるが、こちらも世相講談として極上だ。本書はその発展形と言っていい。各ページに四行の文章が一編ずつ並ぶ。共通するのは、いずれも読む側がハッとする言葉を含んでいることだ。

 たとえば、「近頃の日本の居心地の悪さは、曖昧の価値を見捨てて来たことにある」。また「モノ余ってヒト劣化する」うちに、日本人は「個人とは公の一部である」ことを忘れてしまったらしい。

 さらに「メディアは成功者ばかりを映し出す」が、順位をつけることが可能なスポーツと違って「文化はタテには並べられない」。そんな世の中を渡るためにも、「“自分の美意識”や“自分の尺度”を持つことは、身近な哲学である」。

 この四行大学、誰もが開校できるところが素晴らしい。何かを思ったら、自分で考える。そして、まとまらなくてもいいから書いてみる。書くうちに固まってくるのが「私の哲学」だと山藤学長も言っている。

新潮社 週刊新潮
2019年7月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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