スイスのベストセラー作家が提案する、よりよい人生を送るための思考法

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墓地での幸せよりもいまを人生最高傑作の日に

[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)

 スイスのベストセラー作家が、よりよい人生を送るための思考法をまとめた本が10万部を超えるベストセラーになっている。丸善・丸の内本店では1階入口の正面に圧倒される規模で展開されていた。本書は478頁もあり、自己啓発書としては読み応えのある本となっているので、郊外よりも都心のビジネス街を中心に売上を伸ばしているようだ。

 よい人生を送るための思考法を、本書では「思考の道具箱」と呼ぶ。脳の進化が文明の発展スピードに追いついていないせいで、現代人は考え方や生き方においてミスを犯してしまいがちだという。そういったミスを防いで、よい結果をもたらすためには「思考の道具箱」が必要なのだと著者は言う。

 例えば、考えるよりも先に行動する。行動するよりも考える方が簡単だから、人は考えることに時間を費やしてしまいがちだ。しかし思考というのはある一定のポイントで、もはや1ミリも先に進まない飽和点に達してしまう。そこまできたら、それ以上考えていても時間の無駄である。まずは動き出す。そして柔軟に軌道修正をする。複雑な世界において必要なのは「修正力」なのだ。

 よい人生の基本的なルールは、本当は必要ないものを排除することだ。そのためには戦略的に頑固になる。簡単に頼みごとに応じるのをやめる、といったことも必要だ。自分のイメージを使って仕事をしているのでなければ、SNSの評価からも自由になったほうがよい。また信頼のできる人としか仕事をしないというのもいいだろう。世界に生み出されたものの90%には価値がないそうである。「何を手に入れたか」ではなく、「何を避けるか」が人生においては大切なのだ。

 物質的な成功を手に入れられるかどうかは、100%偶然によって決まるものだという。偶然に身を任せるより、自身の手で「内なる成功」を掴むほうがよい。「内なる成功」とは、心の充実や平静さを手に入れることだ。死ぬときに墓地で一番裕福な人間になっているよりも、「内なる成功」に向けて努力して、いますぐに人生を充実させたほうがいい。その日その日を人生最高傑作の日にしようではないか。

新潮社 週刊新潮
2019年7月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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