『社長の一流、二流、三流』
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社員・スタッフを見下す社長は三流、気を使うのは二流。では一流は?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「一流の社長」ということばからイメージするのは、日本を代表するような著名な会社の社長かもしれません。
しかし『社長の一流、二流、三流』(上野光夫 著、明日香出版社)が想定しているのは大企業ではなく、社員が50名以下くらいの比較的小さな企業の社長。
株式会社など法人企業に限らず、個人事業の形態でも「企業」と意識して経営している人も含め、そうした小さな企業の社長のなかには、大企業の社長にも負けない「一流の社長」が存在するというのです。
本書では、規模が小さくてあまり目立たないけれど、実はとても儲かっているだけではなく、お客様はもちろんのこと、社員、地域社会からも慕われている社長を「一流の社長」と定義しています。
「少しでも一流の社長に近づきたい」とおもうのなら、ぜひともページをめくって読み進めてみてください。(「はじめに」より)
著者は日本政策金融公庫という政府系金融機関に26年間在籍し、おもに融資の審査の仕事に携わってきたという人物。
そんななかで3万人以上の社長と出会ってきたといいますが、つまり本書はそうした経験に基づいて書かれているわけです。
きょうはChapter 3「一流の『マネジメント』とは?」のなかから、2つの要点を抜き出してみたいと思います。
社員やスタッフへの対応
三流は、社員・スタッフを見下し、
二流は、社員・スタッフには気を使い、
一流は、どのように対応している?
社員やスタッフなどのメンバーが、高いパフォーマンスを発揮して成果を上げているのが成長する企業。とくに社員が少ない中小企業は、社長による人材のマネジメントが業績を左右することになります。
ところが著者によれば、人材のマネジメントで失敗している社長はとても多いのだそうです。
中小企業の社長が犯しやすい過ちが、「人材は自分の手足として動く人」と認識し、社員・スタッフを見下してしまうこと。
しかし社長や経営陣が理不尽なマネジメントをしていると、社員の離職率は高くなります。
大企業のように中間管理職が大勢いる組織とは違い、小さな企業は「社長のために働かされている」という思いを抱いた瞬間から社員が働かなくなるもの。
なぜなら社員・スタッフは、社長の言動をよく見ているからです。
だからこそ、必ずしも社員から好かれる必要はないものの、大きな反感を買うことがないように配慮は欠かせるべきではないのだといいます。
逆に社員・スタッフに気を使いすぎている社長もいますが、過度に寛容だと指導力や統率力が弱くなります。
とくに最近は上の立場の人が厳しく指導するとパワハラと言われてしまうことがあるため、「やさしすぎる社長」が少なくないというのです。
しかし、そうなると社員は、社長への忠誠心や尊敬の念をなくしてしまう可能性があるわけです。
著者によれば、中小企業における人材マネジメントで重要なのは、「スタッフは重要なパートナー」と認識すること。
なぜなら優秀な人材ほど、職位の上下による指示命令で動くのではなく、自分の役割を果たすために努力しようとするから。
もちろん経営者としての強いリーダーシップは必要ですが、「パートナーシップ」の考えをベースにしてマネジメントすることこそが、最大の成果を上げるカギだという考え方です。(80ページより)
一流は、 「社員・スタッフはパートナー」 と考え、対応している。
社員を動かす
三流は、社員を自分に服従させ、
二流は、社員のメリットを考え、
一流は、どうやって動かす?
社長がどれだけ優れた経営理念や戦略を構築しても、現場で働く人たちが熱意を持って実行しない限り、成果を上げることは不可能。
とくに組織が小さい中小企業は、人の働きぶりが業績を大きく左右することになります。
しかし、「社員が期待どおりに動いてくれない」と嘆く社長は多いのだそうです。
過去には社長がとても強い立場にあり、社員を服従させていた時代がありました。ところがいまや、社長が鬼軍曹のような姿勢では、反発を食らってしまうだけ。
著者によればここ数年、職場環境を整備したり、福利厚生を充実させたりと、働きやすい環境づくりに注力している社長が多くなったといいます。とりわけ重視しているのが待遇面。
成果を上げた人には給料を多く出す、会社の業績がよければボーナスをはずむなど「にんじんをぶら下げる」手法ですが、それで一生懸命がんばるのは一部の人だけ。それだけでは職務満足は得られないからです。
つまり重要なのは、仕事内容への興味、目標の魅力、達成感など「動機づけ要因」。
事業の現場で働く人たちの間には、さまざまな感情や利害が渦巻いているもの。
たとえ小さな会社でも、2人以上の人がいればそこには人間関係があり、ひがみや妬みなどのネガティブな感情が発生することもあるわけです。
つまり社員を動かすには、こうした「感情」を無視すべきではないということ。
事実、活気ある会社は、社長が社員の感情を刺激し、高揚させることで、大きな成果を上げているものだといいます。
なお、感情を高揚させる方法の例として、著者は次のようなものを挙げています。
(1) 仕事をすることでスキルアップできると伝える
人は、自分がスキルアップすることに喜びを感じるもの。
そのため、具体的に「こんなスキルアップができる」「今後の人生で役立つスキルが習得できる」など、明言することが大切だということ。
(2) 夢に向かって羽ばたくイメージ
「株式上場を目指そう」など、会社が一丸となって向かっていける夢を掲げること。
(3) 成功の達成感を強調
プロジェクトがうまくいったときなど、みんなでがんばったときには大げさなくらいに賞賛すべき。
たとえ小さな成功でも、達成感を味わってもらうことがチームと個人の喜びにつながるからだといいます。
(4) 変化していく
マンネリ化した職場には、沈滞ムードが漂ってしまいます。
しかし新事業への進出、配置転換、大きな展示会への出店など、変化を繰り返すことでポジティブな雰囲気になるもの。
(5) 「あの人のために働きたい」と思わせる
社員が「社長のためにがんばろう」と思ってくれると、組織力が強くなります。
たとえば社長が「メディアに登場する」「大学で講義を持つ」など尊敬できる実績を上げると、社員の見る目が変わることに。
このように感情を刺激し高揚させることができれば、雰囲気がガラリと変わる可能性があるというわけです。(84ページより)
一流は、社員の感情を刺激し、 高揚させる。
タイトルにあるとおり「一流」「二流」「三流」を比較しながら話が進められていくため、とても簡潔な内容。
社長のみならず、将来的に社長を目指したい方にとっても役立ちそうな一冊です。
Photo: 印南敦史
Source: 明日香出版社