「ぽっぽー本」の一冊ができるまで――【自著を語る】『地域から考える環境と経済』

レビュー

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地域から考える環境と経済

『地域から考える環境と経済』

著者
八木 信一 [著]/関 耕平 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784641150676
発売日
2019/03/22
価格
2,090円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【自著を語る】「ぽっぽー本」の一冊ができるまで

[レビュアー] 八木信一(九州大学大学院経済学研究院教授)

『地域から考える環境と経済──アクティブな環境経済学』を、この3月に刊行させていただいた。同じ日に、有斐閣の公式キャラクター「ろけっとぽっぽー」が登場する本として、千葉大学の横田明美先生らによる『法学学習Q&A』も発売されたが、本稿では「ぽっぽー本」の一冊として、この本ができるまでの経緯のいくつかを記しながら、自著を語っていく。

再びの「舞台」へのきっかけ

 かつて私は、テキストの執筆において有斐閣に多大な迷惑をかけている。当時、博士論文をもとにした研究書(『廃棄物の行財政システム』)の執筆を進めていたが、これと並行して地方財政論のテキストを共著で執筆する機会を、京都大学の諸富徹先生から与えてもらっていた。しかし、研究書の執筆に力を使い果たしてしまい、私はテキストを執筆できる機会を辞退してしまったのである。

 このように、「舞台」を自ら降板してしまったので、しばらくはテキストの執筆から離れて、廃棄物から都市緑地、再生可能エネルギー、そして地下水へとテーマを広げながら、とくに環境ガバナンス論にひきつけて研究を進めていた。そのようななかで、再びテキスト執筆の機会が訪れる。恩師の植田和弘先生や諸富先生から、分担執筆の機会を与えていただいたのである。

 このうち『Basic地方財政論』の担当編集者は、かつてご迷惑をかけた秋山講二郎さんであった。秋山さんはこの本の編集を最後にご退職されたので、わずかではあるが非礼のお詫びをできたのかもしれない。そして『テキストブック現代財政学』で私の担当編集者だったのが、先の研究書も担当していただいた長谷川絵里さんだった。

 校了後に、長谷川さんと献本先についてメールでやり取りをするなかで、授業で使用しているテキストのことにも話題が及んだ。そしてその流れで、長谷川さんから「ストゥディアについても環境経済学は進んでいますが、もう1冊つくりたいと考えていますので、もしご興味があれば相談させてください」と依頼を受けたのである。再びの「舞台」へのきっかけは、このようにして突然与えられることになった。

「地域」から環境経済学を紡ぎ直す

 長谷川さんの依頼に対して、数時間後には「地域から考える環境と経済」という本のタイトルとともに、最初の企画書を出していた。そのような素早い対応ができた裏には、地域から環境経済学を紡ぎ直したいという思いを持つに至った、いくつかの経験がある。

 まず、「地域」が付いた授業科目を、前任校(埼玉大学経済学部)を含めて担当してきたことである。これまでに環境経済学のテキストが数多く刊行されており、私も授業準備などでそれらに触れてきたが、地域系の科目や近年において増えてきた地域系の学部・コースに対応できていないところもあるように感じていた。そこで、このような環境経済学のテキストで生じていた「隙間」を埋めて、環境経済学の「裾野を広げる」ことができればと考えるようになった。

 次に、高校(および高校生)とのかかわりである。アドミッション活動や出張講義のなかで、高校生や高校の進路指導担当者と接する機会を持ってきたが、そのなかで大学の低年次教育で使用されているテキストの情報が、高校側にほとんど入っていないことを痛感してきた。そこで、大学生だけでなく高校生にも興味関心を持ってもらえるようなテキストをつくることで、その存在感をこれまでよりも高めたいと思うようになった。

 最後に、研究で出合ってきた「地域」とのかかわりである。なかでも、先進的なまちづくりが注目されてきた長野県飯田市では、木下巨一さん(元飯田市公民館副館長)にお世話になってきた。「私たちの実践を『言語化』してほしい」という木下さんの要望に応えようと、もがき続けてきたが、そのようななかで、実践を言語化する試みの一つとして、地域におけるさまざまな事例を組み入れた、環境経済学のテキストをつくってみたいという思いが芽生えるようになった。なお、本書の第7章で触れている「巻き込まれる力」を最初に気に入ってくれたのは、木下さんである。

「公害」から始めるために

 それでは、このような思いをどのように形にしていくのか。ここでは、章構成とパートナーとなる執筆者がポイントとなった。このうち章構成(とくに各論にあたる第2章以降の構成)では、次のような2つのねらいがあった。

 その1つは、「環境汚染問題」、「自然資源保全・利用問題」、そして「アメニティ問題」という、環境経済学のテキストが出始めた頃における環境問題の捉え方を踏まえることによって、応用経済学の一つに留まらない、環境経済学の裾野の広さをアピールすることである。このようなねらいを踏まえて、環境汚染問題は第2章の公害と第3章の廃棄物で、自然資源保全・利用問題は第4章の農(農業・農村)、第5章のコモンズ、および第6章のエネルギーで、そしてアメニティ問題は第7章のまちづくりで、それぞれ取り上げることにした。

 もう1つは、近年における環境経済学に大きな影響を及ぼしてきた、「持続可能な発展」に関連するテーマを含めることである。草稿の段階では、本書の総論にあたる第1章で、持続可能な発展にも言及することにしていた。しかし、気候変動や有害廃棄物の越境移動を事例とした、「グローカルな動向」と関連づけて説明しようと思い直して、第8章に組み入れることにした。このため、第8章は各論のなかでも、少し異なる印象を持たれた読者も少なくはなかったであろう。しかし、このような変更によって、持続可能な発展と密接に関わるインフラとガバナンスのそれぞれを、第9章と第10章にすんなりと配置させることができた。

 次に、パートナーとなる執筆者である。長谷川さんからの「ストゥディアは基本的に少人数の共著で」という依頼を受けて、私の頭に浮かんだのが関耕平さんだった。なぜ関さんだったのか。大人数の分担執筆によるテキストでは難しい一体感を出すために、「口も出し合って(徹底的に議論して)、さらに手も出し合える(相手が書いた原稿にぐいっと手を入れることができる)」という私の希望に最も合致するのが、関さんだからである。その訳は、本書の序章を読んでいただければ、お分かりいただけると思う。

 加えて、各論を公害から始めたかったことがある。私が「文転」したきっかけは、公害との出合いであった。それゆえ、日本において、地域から環境経済学を紡ぎ直す作業を行うのであれば、公害は外せないと思っていた。しかし、そのような思いを形にするには、私だけでは力不足であった。そこで、旧足尾町の公害地域再生などで公害研究にも明るかった、関さんの協力は不可欠であった。

 私の熱意にほだされてか、関さんは快諾してくれた。そして、2016年4月27日に企画が了承され、執筆へ向けて動き出すことになった。

「ぽっぽー先生」の誕生へ

 原稿執筆の準備として、関さんと長谷川さんとの間で打ち合わせを3回行い、各章の内容構成を具体化させていった。

 読者を各章で取り上げるテーマに導くための「1 テーマと出合う」。テーマに沿った環境と経済とのかかわり、環境問題、および環境政策に関するさまざまな事例や、それらの事例に関係する仕組みやデータなどを紹介するための「2 テーマを理解する」。そして、それらの事例などを環境経済学、環境政策論、およびこれらの関連科目における見方や考え方を通して、より深く考えていく「3 テーマを考える」。これら3つによって、各章(ただし序章と第1章を除く)の内容は構成されているが、そこに至るまでにも長谷川さんの存在が大きかった。

 具体的には、まず具体的な事例などを取り上げる「2 テーマを理解する」から、抽象的な見方や考え方を展開する「3 テーマを考える」へという流れは、本書と同じく長谷川さんが担当された、中村剛治郎編『基本ケースで学ぶ地域経済学』を参考にした。しかし、具体的な事例などから入ろうとしても、読者がそれらに興味関心を持ってくれるとは限らない。このような「苦い経験」を、私も担当授業において数限りなくしてきた。そこで、読者に興味関心を持ってもらうための「仕掛け」が必要であると考えていた。

 そのためのアイデアは、本書と同じストゥディア・シリーズであり、架空の国におけるストーリーが各章の入り口になっている、黒崎卓・栗田匡相『ストーリーで学ぶ開発経済学』に求めた。じつは、この本も長谷川さんが担当されたものであった。テーマとの出合いをストーリーによって演出しているこの本を参考にして、テーマに関連した大学生と先生との会話を各章の入り口に設けることにした。それが「1 テーマと出合う」である。

 このなかの登場人物について、学生役のゲンバくんとチイキさんは、それぞれのキャラクターを含めてすぐに決まったが、問題は先生役をどうするかであった。いろいろ議論するなかで、「ろけっとぽっぽー」のファンの一人であった私はふと、「ぽっぽーさん、先生役してくれますかね?」と長谷川さんに尋ねてみた。すると、「それでは、担当の者に聞いてみますね」と意外に(?)あっさり応じていただいた。そして誕生したのが、「ぽっぽー先生」である。

「ぽっぽー本」への伏線

 じつは、「ぽっぽー先生」の誕生には伏線がある。そのなかでは、有斐閣営業部の伊丹亜紀さんの存在が欠かせない。

 「アポなし」の営業担当者には、いつも冷たく接してしまう私であるが、旧箱崎キャンパス(文系地区)で当時お世話になっていた、大学生協の店員Hさんから紹介されたこともあり、研究室に訪れた伊丹さんをお通しした。長谷川さんなど、書籍編集第2部の方々とは面識があったが、営業部の方は伊丹さんが初めてであった。その伊丹さんから紹介されたのが、「ろけっとぽっぽー」であった。よって、伊丹さんとの出会いがなければ、「ろけっとぽっぽー」を知ることもなかった。また、本書の各章を彩るイラストを描いていただいた、「ぽっぽー画伯」さんとの出会いもなかった。

 さらに、研究室の本棚のなかで、空き家関係の本をながめていた伊丹さんから後日依頼されたのが、『書斎の窓』での対談だった。本稿は「自著を語る」であるが、伊丹さんから依頼を受けたのは、『空き家対策の実務』の編者の一人である上智大学の北村喜宣先生と、この本について対談を行う「自著を語らせる」であった(『書斎の窓』2016年9月号)。そして、じつは私よりも前に、北村先生の手によって執筆されたストゥディア『環境法』の「自著を語らせる」に登場されたのが、横田先生である(同2016年1月号)。

 2冊の「ぽっぽー本」が同じ日に刊行されたことは、おそらく偶然だったのであろう。しかし、以上のような伏線を踏まえると、そのことは「必然」であったと私は思いたいのである。

有斐閣 書斎の窓
2019年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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