日本のいま、そこにある危機を描いた娯楽小説3選

レビュー

40
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  • 猟犬の旗
  • 機龍警察〔完全版〕
  • 泥の銃弾(上)
  • 泥の銃弾(下)

書籍情報:版元ドットコム

現代日本の世相を見事に反映させたスパイ小説

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 スパイ小説の大家、ジョン・ル・カレが冷戦期とその終焉、9・11テロ後の光景を描いてきたように、謀略小説は時代を映す鏡の役割を持っている。では現代日本の世相を見事に反映させたスパイ小説は、と聞かれた時に挙げるのが芝村裕吏猟犬の旗』である。

 語り手の「俺」は外国人でありながら、日本の情報機関に所属するスパイだ。休暇中に組織から命令を受けた「俺」は、関西国際空港へと向かう。日本の各地でどうやら外国の勢力によるテロが計画されているらしい。関空に着いた「俺」を待ち受けていたのは、サブマシンガンを連射するヨーロッパ系の中年女性だった。

 日本のために動く外国人スパイの組織、実在の有名スポットを舞台に繰り広げられる派手なアクションと、それこそ〈007〉シリーズのような娯楽要素満点の活劇小説のように一見思える。しかし読み進めていく内に、本作が現実の日本と世界の関わりについて深く重い問いを投げかける物語であることが分かるはずだ。一連のテロ騒動の背景にある理由は意外極まるものだが、同時に「決して絵空事ではないのかも」と思わせるところが恐ろしい。

 日本のいま、そこにある危機を娯楽性たっぷりに描いた作品といえば、月村了衛〈機龍警察〉シリーズ(ハヤカワ文庫JA)である。新型機甲兵装「龍機兵」を操る傭兵を雇った警視庁特捜部の活躍を描く、警察アクション小説の秀作だが、世界各地の情勢と日本に迫る脅威を緻密に織り込むなど、極めてリアリスティックな謀略小説としても歯応え十分なシリーズだ。

 余りにも大胆な着想を持ち込んだ至近未来小説ということでは、吉上亮泥の銃弾』(上・下巻、新潮文庫)を挙げておきたい。何せこの物語の舞台は国策として大量に難民を受け入れるようになった2020年の日本であり、その前年に東京都知事が狙撃されるという大事件が発生しているのだ。こう書くと際どい作品に思われるが、視点は極めてジャーナリズム的。現代日本の姿を捉えようとする真っ当な社会小説でもあるのだ。

新潮社 週刊新潮
2019年7月18日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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