<東北の本棚>老い見つめ世情を憂う
[レビュアー] 河北新報
3月に98歳になった著者の第6歌集。94歳の時に第5歌集を刊行しており、以降の作品から233首を自選した。あとがきで「今度こそ最後の歌集にしようと思い立った」と述べる著者が付けた表題「残灯」は残りの生を重ね「のこんのともしび」と読む。
巻頭の17首「露地の春」は鮮やかな椿の花に思いを込めた。<今年また赤き椿の花に逢ふ去年(こぞ)は限りと思ひしものを><おぼつかなき歩みのわれを案ずるや露地を見下しゐる赤椿>。自らの老いの日々を見つめつつも視野は狭くならず、<紛争地シリアは遠し赤椿咲きて落ちつぐ露地につづく世>と世情を憂える。
<着地点はたしていづこたんぽぽの綿毛この世を縫ふごとくゆく>。風に舞う植物のはかない命の源がどこに落ち着くのかさえ気になる。コンビニエンスストアの様子や発光ダイオード(LED)の懐中電灯などを詠んだ作品もあり、身の回りの動きに関心を持ち続けることが、作歌意欲につながっているようだ。
第1章「私」は個人的な心情や日常を詠んだ短歌。第2章「公」は日本女子大関連の作品で、自ら作詞した校歌や東日本大震災で亡くなった同窓生への鎮魂の詩などを収めた。
著者は甲府市生まれ。日本女子大、東北帝大(現東北大)卒。仙台市在住。
現代短歌社03(6903)1400=2700円。