【文庫双六】米ミステリ重鎮が描く古書店主の“泥棒探偵”――梯久美子

レビュー

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泥棒はスプーンを数える

『泥棒はスプーンを数える』

著者
ローレンス・ブロック [著]/田口 俊樹 [訳]
出版社
集英社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784087607543
発売日
2018/09/20
価格
1,210円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

米ミステリ重鎮が描く古書店主の“泥棒探偵”

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

【前回の文庫双六】和も洋もミステリと古本は相性がいい――川本三郎
https://www.bookbang.jp/review/article/574258

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 ジョン・ダニング『死の蔵書』の主人公である、古書店主ジェーンウェイは元刑事。彼とは対極にある職業から古書店主になったのが、ローレンス・ブロックが生んだ“泥棒探偵”バーニイ・ローデンバーだ。

 ジェーンウェイと違って、バーニイは古書店主になってからも泥棒を引退していない。二足のわらじを履いているのだ。

 著者ローレンス・ブロックはアメリカミステリ界の重鎮。日本ではアルコール依存症の探偵マット・スカダー(こちらは元警官)のシリーズが人気だが、肩の力の抜けたユーモアミステリのバーニイシリーズも捨てがたい魅力があり、私は1977年刊(邦訳は80年)の第1作からのファンである。

 3作目の『泥棒は詩を口ずさむ』でニューヨークの古書店の店主に収まったバーニイ。そのときは世界に1冊しかないキプリングの詩集を盗むという依頼を受けたところから事件に巻き込まれたのだった。

 11作目にして最新作の『泥棒はスプーンを数える』でバーニイが依頼されたのは、スコット・フィッツジェラルドの草稿を盗み出すこと。後に『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』として出版されることになる小説の初期形で、「逆向きの人生」というタイトルがつけられた手書き原稿である。

 物語は例によってゆるーく進む。シリアスなマット・スカダーシリーズ(カッコいいがときどき鼻につく)とは対照的だ。犬の美容師でレズビアンの親友キャロリンや、「金で買える最高のおまわり」ことカーシュマンなど、ほかの登場人物との間で交わされる本筋とはほぼ関係のないおしゃべり(解説の若竹七海氏によれば全体の7割を占める)も相変わらず楽しい。

 電子書籍のせいで苦境に立たされているバーニイだが、「昔ながらの本屋」にこだわり、オンライン販売は断固拒否。シリーズ開始当時は予想もつかなかったアマゾンとの戦いに、にやりとさせられる。

新潮社 週刊新潮
2019年7月18日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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