待機児童対策…八田達夫編著

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待機児童対策

『待機児童対策』

著者
八田達夫 [著、編集]
出版社
日本評論社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784535559431
発売日
2019/05/21
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

待機児童対策…八田達夫編著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

古い制度や慣習の弊害

 待機児童とは、認可保育所等(など)に入所の資格があるのに空席がないため、入所を待っている児童のことだ。認可保育所には国から手厚い補助が出ているため、保育料は安く、行政機関が入所者を選定する。編者は待機児童を、過度に安い保育料が生んだ「超過需要」ととらえる。超過需要を解消する方法は2通り。保育料を上げて需要を減らすか、保育所の供給を増やすかだ。

 認可保育所への需要が高いのは、料金が低く抑えられているからだ。その一因は、この制度がもともと、母親が働く困窮家庭のために作られたものであるから。だが女性の社会進出が進んだ昨今、その仕組みは裏目に出ている。両親がフルタイムで働く高所得な家庭の方が、そうでないパートタイムの家庭よりも、入所の優先順位が高くなっているのだ。また、今秋の制度変更で、認可保育所は無償化になる運びだが、これは認可保育所の需要をさらに高めることになろう。

 一方の供給を見てみると、保育所を増やすには、保育士を増やす必要がある。だがそのために、保育士の試験を年一回から二回に増やすことさえ、なかなか前に進まない。その試験を作成していたのが、試験なしで保育士の資格を取れる学校の団体だったから、試験作成の協力を得られないのだ。ここでは、利益相反のある団体に試験の作成を任せていた慣例が、問題の解決を困難なものとしている。

 本書には、さまざまな関係者へのインタビューがおさめられている。そこでは、厚生労働省さえ目的が分からない過剰な規制や、昔の政治家が人気取りで下げた保育料のこと等が語られている。痛感させられるのは、いまは存在理由を失った制度や慣習の弊害だ。本書の登場人物たちは、企業や行政機関など、それぞれの場所で待機児童問題の解決に奮闘している。その末にまとめられた本書の一連の提言を、せめて社会は活(い)かしてゆかねばならない。

 ◇はった・たつお=1943年生まれ。アジア成長研究所理事長・所長。著書に『年金改革論』(共著)など。

読売新聞
2019年7月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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