新全体主義の思想史 改変中国:六四以来的中国政治思潮…張博樹著

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新全体主義の思想史

『新全体主義の思想史』

著者
張博樹 [著]/石井 知章 [訳]/及川 淳子 [訳]/中村 達雄 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784560096994
発売日
2019/05/30
価格
4,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

新全体主義の思想史 改変中国:六四以来的中国政治思潮…張博樹著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

中国知識人の政治言論

 21世紀の超大国・中国の動向は、世界の注目の的だ。日本でも、政治・経済分析が豊富になされている。しかし共産党独裁のイメージが強すぎて、中国の人々の思想となると、あまり紹介されていない。

 本書はその間隙(かんげき)をうめる良書だ。中国の知識人の政治言論の様子を広範に知ることができる。翻訳もこなれていて読みやすい。

 著者は、中国国内の思潮を大きく九つに分ける。リベラリズム、新権威主義、ネオ・ナショナリズム、新左派、毛沢東左派、党内民主派、憲政社会主義、儒学治国論、新民主主義回帰論という具合だ。中国国内の思想にも西洋思想にも明るい著者ならではの視点だ。そして著者は、それぞれの思潮の代表的な人物に焦点をあてて、言説内容を紹介しながら、独特の辛口の鋭い批評も施していく。

 中国共産党体制という特殊な一つの政体を、様々な角度から根源的に分析していく議論が、次々と参照される。生きた中国人の快活な思想が、次々と飛びかかってくる。日本では経験できない中国人たちの政治言論のダイナミズムは、圧巻だ。日本でも、明治期などに、こうした言論人が、国家論を戦わせていたのではなかったか。中国への親近感とともに、奇妙な懐かしみも覚える。

 著者は、中国国内で生まれ育ち、学術活動を開始した人物である。1989年天安門事件が、著者の「命運を徹底的に変え」た。「反逆の道に向かって進む」著者は、当局から批判され、職を失う。迫害を逃れ、56歳で米国に渡り、著作活動を続けた。「中国を変える」のは「リベラル派にとっては不変の初志である」と書いて、著者は本書を結ぶ。たとえ中国の独裁体制が50年存続したとして、「それがどうだというのか」。

 「リベラリズムだけが中国の未来を代表していると信じる」。そう言い切る著者の言葉に、現代世界では見ることが稀(まれ)になったリベラリズムの神髄にふれた思いにかられる。石井知章、及川淳子、中村達雄訳。

 ◇ちょう・はくじゅ=1955年生まれ。中国社会科学院哲学研究所勤務を経て、現在はコロンビア大客員教授。

読売新聞
2019年7月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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