晩節の研究…河合敦著

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晩節の研究

『晩節の研究』

著者
河合敦 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344985513
発売日
2019/04/25
価格
968円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

晩節の研究…河合敦著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

上手に老いる難しさ

 昔、NHKに「連想ゲーム」という人気番組があった。リーダーが出すヒントを手がかりに、回答者が言葉をあてて勝敗を競うという形式のクイズ番組だ。たとえばお題が「指揮者」なら、第一ヒントは「オーケストラ」。その真似(まね)をして、では第一ヒントです。「汚(けが)す」。これでどんな言葉を連想しますか。

 大多数の方が「晩節」と答えるのではないかと思う。人が歳(とし)をとってから、それまでの良い功績をかき消してしまうような不始末をしでかすことを、「晩節を汚す」という。これ以外の形ではこの言葉を使わないような気がするほど、耳に馴染(なじ)んだ言い回しだ。

 これは、「晩節」さんには気の毒な現象である。言葉自体は単に「老後」「晩年」をさしているだけなのだから。ただ、ある人物の若いころの功績が輝かしければ輝かしいほどに、その人が晩年になって再び世間の注目を集める機会は、良いことよりも、悪いことやスキャンダラスなことをしでかした時の方が多い――という悲しい傾向があるのは確かなのだ。英雄や成功者が凡々と穏やかな晩年を過ごしている場合は、誰も強い関心を寄せたりしないからである。

 本書はそういう、普段はほとんど注目されることのない、歴史上の著名人たちの晩年期を取り上げた、ちょっと珍しい研究本だ。古代・中世・近世・近代の四つの時代から、教科書に登場するような偉人・傑物たちを選び出し、その老後の生き方、彼らの人生がもっとも輝いた時期の「その後」を見つめている。病に苦しみ政敵の怨霊に怯(おび)えながら没した藤原道長。親不孝な息子を義絶しなければならなかった親鸞。勘違いで人を殺(あや)めて獄死した平賀源内。彼らを「汚す」組とするならば、生涯現役を貫いた大岡忠相や、独自の健康法で八十代まで活躍した貝原益軒は「晩節でなお輝く」組だ。できれば後者になりたいものだが、上手に老いるのは難しい。溜息(ためいき)が出てしまいます。

 ◇かわい・あつし=1965年、東京都生まれ。歴史研究家。早稲田大大学院修士課程修了。専攻は日本史。

読売新聞
2019年7月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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