諡 天皇の呼び名…野村朋弘著

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諡

『諡』

著者
野村 朋弘 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784120051944
発売日
2019/05/22
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

諡 天皇の呼び名…野村朋弘著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

本来の意義を再考する

 上皇さまの呼称をめぐっては議論があった。

 その理由は、「平成」が将来、上皇さまの諡(おくりな)になるからだとされる。これまで在位中の天皇は「陛下」などと呼ばれてきた。

 では、諡とは何か。本書はその謎を追う。

 それは、死後に名付けられる「呼び名」にとどまらず、「子孫が死者の業績をもとに評価」する点で、日本では「何かしらの政治的意図をもって天皇自身や、次代の天皇が考え」たものだと著者は定義する。

 もともと古代中国で始まった諡は、祖先祭祀(さいし)のための「廟(びょう)号」や、仏教徒が授けられる「戒名」とは異なる。日本では「律令」制度の輸入と同時期、奈良時代のはじめごろに重視される。そして、日中の違いとして「天皇家が永らく王権を担っていた」ことを著者は挙げる。つまり諡は、天皇の正統性を示し、その王権を正当化する意義があったと述べる。

 それゆえ、皇統の危機、たとえば応仁の乱をはじめとする戦乱や混乱の多い時代にこそ、諡が重視されると強調する。南北朝時代で有名な後醍醐天皇はその典型で、元号が文保の時に即位し、延元に至るまで8回も改元した上で、生前に自分の諡を決めている。また、今回の代替わりと同じく「生前退位」をした江戸期の光格天皇のように、先代の実子ではなく、皇統の交替を経て即位した天皇には、「よく前業をついだ」ことを意味する「光」が諡に使われている。著者の関心は天皇家存続の理由へと一貫し、読者を捉えて離さない。

 明治以降、諡は元号をそのまま用いる。一世一元以降は前代への評価が憚(はばか)られたからであり、諡は本来の意義を失ったと、著者は述べる。

 ただし、上皇さまがいつか亡くなられる場合、「令和」定着の後に「平成」が諡に使われるだろう。では、そこに評価や意図はないのか。先ごろの代替わりをあらためて考えるためにも、本書を手元に置きたい。

 ◇のむら・ともひろ=1975年生まれ。京都造形芸術大准教授。専門は天皇制や神社史。著書に『伝統文化』など。

読売新聞
2019年7月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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