芸術を守り抜いた男たち 『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ

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美しき愚かものたちのタブロー

『美しき愚かものたちのタブロー』

著者
原田 マハ [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163910260
発売日
2019/05/31
価格
1,815円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

芸術を守り抜いた男たち 『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 今年、創立六十周年を迎えた国立西洋美術館は、二十世紀のモダニズム建築の巨匠と称されるル・コルビュジエと三人の日本人の弟子が設計したことで二〇一六年に世界文化遺産に登録された。

 この美術館の収蔵品の中核を成すのは、「松方コレクション」と呼ばれる美術品だ。戦後、フランスから日本へ寄贈返還されたのは三七五点。しかし神戸の川崎造船所の社長、松方幸次郎が集めたのはモネやゴーガン、ゴッホの絵画、ロダンの彫刻、そして日本の浮世絵など一万点にも及んだという。第一次世界大戦によって巨万の利益を得たことで、松方は日本に世界に誇る美術館を作ることを夢みる。専門家のアドバイスを受け、ヨーロッパの様々な美術品を買い集めた。

 だが昭和の金融恐慌で会社は危機に陥り、コレクションは散逸、その上、第二次世界大戦の勃発で、フランスに留め置いた作品も行方不明となった。

 本書は数奇な運命を辿(たど)った「松方コレクション」を美術史家の田代雄一(たしろゆういち)の視点を中心に、近代絵画史、松方の収集時のエピソード、当時のパリの風景、世界経済と戦争の歴史とともに描写していく。稀代の美術収集家、太っ腹な大金持ちである松方幸次郎の豪放磊落(らいらく)さに惹かれた男たちと、芸術に取りつかれた男たちが「松方コレクション」を収集した経緯、そして取り戻すまでを生き生きと描いていく。

 著者は架空の人物を織り込みながら、戦時中、実際にナチス・ドイツからコレクションを守った男の切ない人生に思いを寄せる。

 松方の愛したモネ、ルノワール、ゴッホの絵画をいま国立西洋美術館で展示している。この絵たちの辿ってきた道を知れば、必ず鑑賞したくなるだろう。

光文社 小説宝石
2019年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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