育休刑事(デカ)…似鳥鶏著

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育休刑事

『育休刑事』

著者
似鳥鶏 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344034655
発売日
2019/05/23
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

育休刑事(デカ)…似鳥鶏著

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

できる男は子連れ捜査

 おむつよーし、ミルクよーし、お着替えよーし。抱っこ紐(ひも)装着確認完了。ポケットには、よだれを拭くためのミニタオル。やっと首が据わった蓮(れん)くんとともにお出かけするのは、県警本部捜査一課第七強行犯捜査四係所属の秋月春風(はると)巡査部長、ただいま育児休暇取得中。体重7キロの蓮くんを抱き、大きなトートバッグを肩にかけて歩くのは、なかなか難儀だ。

 体力に自信のある自分でもたいへんなのだから、出産や授乳で栄養を吸い取られる女性に家事育児すべてを担わせるのはあんまりだ――とハルくんこと春風巡査部長は考える。妻の沙樹さんは産後3か月でフルタイム勤務に復帰し、管理職として残業や休日出勤もこなしている。せめて家にいる間は休んでもらいたい。家事なんかやらせたら、俺は鬼畜だと思う。そうそう、そうなのよ、その通りなんだけど、それがわかって、実行できる男はなかなかいないのよ。うちの亭主なんかひどかったわよ。

 蓮くんを連れた春風巡査部長は、育休中にもかかわらず、行く先々で事件に巻き込まれ、解決に向けて奔走する。拳銃強盗に遭遇している最中でも、蓮くんはおかまいなしに泣きだしてまわりをひやひやさせる。赤ちゃんだから仕方ないけど、絶望的に困る時ってあるよね。

 でも、蓮くんと一緒だからこそ聞き出せる証言があり、子供を持つ前だったら絶対見逃していたことに気づけたりもする。しかも捜査に参加するごとに、蓮くんは目に見えて成長するのだ。いや、事件はなくとも子は育つから。

 あとがきによれば、本書は著者自身が父親になったのをきっかけに生まれたそうだ。ハルくんと同様、著者も手が抜けなくて、ちょっと理屈っぽいタイプらしく、いろいろな段取りが几帳面(きちょうめん)に書き込まれている。家事・育児・仕事・パートナーへの配慮など、複雑かつ微妙なオペレーションをこなすためのガイドブックとしても好適。うちの息子にも読ませます。

 ◇にたどり・けい=1981年生まれ。『理由あって冬に出る』でデビュー。著書に『戦力外捜査官』シリーズなど。

読売新聞
2019年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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